第四章 河の左・河の右 その一

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乗客十二名、乗務員二十名を載せた人工知能AI列車疾風は、無限空間を疾走していた。

疾風は思考していた。

(これからどこへ向かおうかしら)

疾風の思考は、頭脳に浮かぶ候補地をイメージしていた。

乗客たちに、楽しく思い出に残る旅を提供したい。

疾風の思考は、もはやビジネスマンのそれだった。

(花蓮。あなた私のメイン・ブレーンでしょう。何か候補地はないの。知恵を貸してよ)

すると、花蓮が意地悪な笑みを意味するシグナルを送ってきたが、候補地を示した。


(しかたないわね。疾風の進行方向に、《分断惑星》があるわ。

そこはね星が一筋の大河で左右に分断されているわ。河の左側は豊かな物資に溢れているけれど、河の右側は、物資が欠乏しているわ。だから、農作業や狩猟で生を営んでいる。乗客達に選ばせるのよ。おもしろいゲームでしょう)


花蓮が大笑いしているシグナルが送られる。

疾風は苦笑する。

(花蓮は意地悪ね。でもいいか。旅は楽しいばかりじゃないから)

疾風は加速した。《分断惑星》へ。


疾風車内は、乗客たちの間に一種の連帯感を生じさせていた。

その一因は、客室乗務員だった中西冴子と美麗が、坂家夫妻の養女として迎えられることが決まり、姉妹の事情が乗客たちに伝えられ、承諾と祝福の拍手が起こったことであり、更には、夢幻の列車に乗客たちは慣れ、次第に魅了されている者同士の仲間意識が生じてきたことだった。



客室乗務員室から長身の女性が現れた。

食堂車での乗客たちの歓談が止み、全員の視線がその女性に注がれる。

「乗客の皆さま、中西冴子さんと美麗さんが、坂家護様ご夫婦のお嬢様になられたことに伴い、新しく客室担当乗務員になりました西村彩でございます。どうぞよろしく。美麗さん、冴子さん。どうぞお幸せに」

中西姉妹が頭を下げて謝意を示し、拍手が起こった。

「なにしろ、突然社長から指名されて、コックから転属しましたので、至らぬ点があると思いますが、お叱りは、明智社長にお願いします」と、ジョークを交える。

乗客たちの視線が、明智賢治に転じた。

突然の反撃に、賢治は一瞬たじろいだが、立ち上がり彩を紹介した。

「参ったな。しかし故なく西村君を指名したのではありませんよ、皆さん。

ご覧ください。西村君は、スラリとした長身に、輝く笑顔を忘れません。こんな美女が、ただ毎日下を向いて食材に笑顔を向けるだけなんて、我社の損失です。今からは笑顔を乗客の皆さまに向けるべきです。

どうですか、皆さん」


一斉に同意の拍手が起きた。彩は、沈黙して足元を見るだけだった。

しかし、さっと顔を乗客達に向けると、ややぎこちない笑顔で、

「どうぞよろしくお願いします」


と、挨拶を終える彩に拍手が送られた。


体格のがっちりした青年というよりは少年のような初々さを持った若者が、ハスキーな声で停車地をアナウンスした。

青年の名は、「春島雄二」という。

雄二は、車内放送を終えると、疾風が、頭上から雄二に司令を出す。

「ホットシナイデ、カクヘヤニハシッテツタエナサイ!」

疾風に言われて、雄二は、首を竦めて返事をして走り出した。

「わかりました。行ってきます」

春島雄二は走り出す。


「次の停車地は『分断惑星』です」

「次の停車地は『分断惑星』です」



一平と勇気は、”分断惑星”のデーターをテーブルに浮かび上がらせて読んでいた。

「星全体を縦断して、清流が流れている。

河の左側は、先進工業都市であるが、右側は、農村地帯である

河の左右の住人たちは、一様に仲が悪い。が、最近共存・共栄を志向する第三のグループが存在している。ですって、一平さん」

勇気が一平に、概要を朗読して言った。

「なにか複雑だね。でも僕は降りるよ。疾風の中は快適だけれど、そろそろ外に出たいよ」

「そうね。出ましょう。いざとなったら、私が一平さんを守ってあげるから」

勇気の言葉に、一平は渋い顔で

「それは逆だよ」と言った

疾風は、工業地帯に向かって降下していく…。








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