作中ギミックを活かした構成の妙が魅力的

 小説というメディアにおける語り手に関心があるのだろうと思われる。なぜこのテクスト(作中設定的にはECHO LOGということになっているが)残されたのか、という点が明示されており、かつ、そのギミックが、本作がこうした構成になっている理由づけや、締めくくり方にまで直接的に作用している。作品を、視点人物の残したテクストとして、徹底的にパッケージングする試みは非常に面白く、好ましい。
 一方で、物語としては、いささか起伏に欠けていると思われる。終わりつつある世界の、なんでもない日常、少しだけ特別な出会いを描くにしても、穏やかな感情のやりとりに終始するよりも、主人公にとってヒロインがより特別なものであることを強調できるようなエピソードを挿入した方が、それまでの習慣を捻じ曲げてまで、この結末を承諾する説得力も生じるのではないだろうか。
 また、ESSを単に作品世界・シチュエーションを成立させるためだけのギミックとしてとどめておくのは勿体なく感じた。
 更に、本作では様々な小説が引用されるが、選書には筆者の思い入れが優先されているように思われた。これらの引用部が、物語の展開に対し、本当に効果的に作用しているかというと、やや疑問が残る。
 総合すると、試み・構成としては大変興味深く読んだものの、そこに内包されているコンテンツにも、同じレベルの気配りがなされていると、より完成度高いものに仕上がったのではないか、と思わせられる小説だった。