BRACK

真宙

第1話 出会い

『ロサンゼルス』


 そこは言わずと知れたアメリカの大都市の一つである。そしてHollywoodを始めとし、エンタメに強いこの街は数多くの夢追い人を魅了し、四六時中光り輝く、まさに摩天楼。

 だが、物事には必ず裏と表があるように、強く眩い光があるのならそのすぐ裏には真っ暗な闇が影を伸ばしているものである。

 そしてその裏側に生きる者たちにとってこの世界は闇そのものであり、生と死が常に隣接している。しかしそんな1寸先どころか辺り一帯が真っ暗なこの世界でも、懸命に光を探しもがくもの達がいる。

 蛍火のように小さな光を求めて彷徨う若い彼らの人生という壮絶な物語。その1部にほんの少し光を当ててみようと思う。


 "ロサンゼルスの外れ、Comptonにあるとある廃墟群の一角にて"


「貴方は僕の神様です。どうか僕を一生貴方の傍に置いて下さい....!」

 

 雑巾の端くれのようにボロボロになった少年は、その男を見るやいなや瞳をきらきらと輝かせて叫んだ。


「........断る。」

 

 ヒュースは一瞬の躊躇いの後そう答えた。

 これがこの後両者の運命を大きく狂わせる出会いであった。


「ボス、こいつ殺してその辺に捨ててくるぜ?」


「..................放っておけ。」


「は?何言ってんだよヒュース、まさか俺らの掟を忘れた訳じゃねえよな?」


「別に...ただこんなガキ生きようが死のうがbloodにはなんの影響もねえだけだ。」


「チッ、情けなんてらしくねぇ。」


 派手に嫌悪感を表すこの男はヤングギャング集団、bloodの副リーダー、ジョーである。

 そしてたった今ボスと呼ばれたこの男こそがこの集団を統率するリーダーであり、カリスマ的存在として名の知れたヒュースである。

 Comptonという地域には多くのギャング集団が根を張っているため、観光客はまず近づくことは無い。

 そんな無法地帯と化したこの地区だが、bloodのヒュースと聞いたらほとんどのギャング共が道を開けた。それほど圧倒的な個の力と、荒れくれ者達をまとめる統率力をヒュースは有していた。

 そしてbloodのメンバーには決して犯してはいけない鉄の掟があった。

 それが「縄張りから白人を排除すること」であった。それは彼ら一人一人が白人に何かしらのトラウマを抱えていて、程度の差はあれど憎悪し嫌悪していることに起因する。

 そしてこの掟は今までただの1度も破られたことは無かった。リーダーであるヒュースが自ら破るこの瞬間まで。それほどまでに今日ヒュースが掟を破ってまで少年を助けたことは異例なことだった。


「僕!!諦めませんからッ!!!!必ずまた来ますから!!!」


廃墟から追い出された少年は張り裂けんばかりの大声で叫んだ。


「あ"?あの野郎ぶち殺してやる!」


「落ち着いてくださいよジョーさん!ボスが見逃すって言ったんだ。俺らにはどうしようもないッスよ!」


 今にも外に出ようと暴れるジョーを制止するもの、一緒になって暴れるもの、傍観するもの。場はカオスを極めた。しかしそれもまたヒュースの一言で治まった。


「似ていた。理由はそれだけだ。」


 その場にいたほぼ全員の頭に?が浮かんだ。

しかしジョーを含む数人だけは何となく察したようで、そのまま押し黙った。

 しかしその時這ってでもその少年を排除しなかったことを、ジョーはこの後深く後悔する羽目になる。


「おはようございます!!」


翌日の朝、少年ケビンの声がアジトに響き渡った。


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BRACK 真宙 @umekis35

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