第042話  学園ごと集団転移?

山羊乳と砂糖、果物もいろいろとあったので『鉄板アイス』を葵ちゃんとリアちゃんに振る舞った俺。


うん、久しぶりの肉に対する慾望で完全に我を忘れてたけど……むっちゃ見られてるよな。

中庭どころか、『屋敷中に広がりそうな勢いの焼いた肉臭』を漂わせてたんだから、当然といえば当然なんだけどさ。

てか、一人くらい『貴様らは……わざわざ呼び出しておいて己等だけ飲み食いするとはどういう了見なのか?』とか意味の分かるような分からないような事をいい出すオッサンがいても良さそうなモノなんだけど……。


(何というかこう、見物してる人の視線がバーベキューに集まった人たちの雰囲気じゃないんだけど?もしかして、むっちゃ引かれてる?)

(そもそも私たちが好き勝手に飲食してただけで、他の方たちはバーベキューをしてないので当然じゃないですか?)

(いや、確かにそうなんだけどさ。ほら、子爵様を筆頭に、想像してたような反応をする貴族様が誰もいなくてちょっと困惑気味なんだけど?むしろ不必要に相手を警戒してた自分に少しだけ罪悪感が……)

(他人を信じない心ってとっても大切だと思いますよ?狩ってきた獲物の死骸を見た時から集まってる人たちの顔色が完全に変わってましたからね?たぶんですけどその魔物……じゃなくて動物、この国の人たちでは簡単には倒せない感じの獣なんじゃないですかね?)


なるほど、『下手に出過ぎて舐められたら面倒くさいから、相手に敬意を表しながらも同等の立場で接してやろう。そうすれば敵対しそうな人間も炙り出せるし一石二鳥だろう?』作戦の結果が、『退治した獣の威圧感が強すぎて話し掛けるのもためらうくらいに相手から距離を置かれた……』感じになっちゃったのか。

デカいサイとか、デカい牛とか、デカい鳥とか、デカい亀とか、とくに恐怖を感じるほど強い相手じゃなかったと思うんだけど……いや、それをいい出したら『悪夢魔インムバス』ですらそんなに怖いとは思わなかったんだよな。

つまり、俺が『デカいシリーズ』に恐怖を感じなかったのは、インムバスの時と同じで葵ちゃんの『異世界魔法剣士』の恐怖耐性のおかげだったということ。


(……ちょっとここで『インムバスの死骸』を出したらどうなるのかもの凄く興味が湧いてきたんだけど?)

(今でも十分に怯えられてますので、止めを刺すようなことはやめておいたほうがいいと思いますが……)

(……もちろん冗談だからね?さすがに意味なく怯えられるのも不本意だし、ちょっとくらいはいい人も演じておくべき?)

(そうですね、これから利用……ではなく、今後この街で大きな取り引きをするつもりなら多少は子爵様のお顔は立てておいた方がやりやすいかもですね?)


取り引き……もしもライノナンタラとか、ブラックゴーゴンの革とか角が売れるのなら肉のついでに大儲け……悪くないな!

子爵様の方を振り返り、軽く会釈する俺。


「どうも、初めて扱う素材でしたので処理と調理に必死になってしまい、お見苦しい所をお見せしてしまいました」

「いやいや、こちらこそこのような娯楽のない僻地であるがゆえ、勝手に大勢で集まってしまい申し訳ない。いや、中央でも扱える人間などそうそういない難しい素材、その解体技術、そして調理技術……実に素晴らしいものを見せてもらった!」

「そうなのですか?何ぶん我々は他国の人間、この国の常識には疎く……先程のブラックゴーゴンなどはこの国では一般的な食肉なのでしょうか?」

「とんでもない!年に数度、王宮や上級貴族の晩餐会に出ることがあるやなしやの超高級素材……我々のような地方の者の口に入ることなどとてもとても……」


「そうなのですか!?繰り返しとなりますが初めて扱う素材ということもあり、他の方に迷惑をかけることも出来ないだろうと、毒見を兼ねての我々だけでの食事……皆さんには嫌味なことをしてしまっていたようですね。もうすぐ昼時、よろしければこちらでお世話になっているお礼も兼ねまして、皆さんを食事にご招待などさせていただければ嬉しいのですが、いかがでしょう?」

「いやいや、ヒカル殿もアオイ殿もリア殿も娘の大切なお客人、そのようなお気遣いはご無よっ!?」


遠慮しようとした子爵様、後ろから満面の笑顔の奥さんとローラさんの下の娘さんに、両側からお尻を抓られビクッとする。


「……無用といいたいところだが、せっかくの誘いを断るのも失礼にあたる。此度は遠慮なくお言葉に甘えさせていただこうではないか!」


子爵様の宣言とともに、オッサン連中の低い声で『おおっ!!』という歓声が中庭に広がる……どうせなら女の子が喜ぶ声のほうが嬉しかったよ。


子爵様の家族だけでも良かったんだけど……いまさら他の人たちに帰れといって後々恨まれたりしたら意味がないからな。

営業スマイルを顔に貼り付けて延々と肉を焼き続けることに。


てか、一皿目って普通は子爵様に持っていく物だと思うんだけど……他の人たちが全員遠慮してる中、どうして『昔話大好き地味っ娘女騎士』ちゃんが取りに来ちゃったのかな?……顔を引きつらせたお父さんらしき人に引きずられていったよ……うん、彼女が言うように俺とは知り合いですけど?いえ、そこまで仲良くはないですので……知らないです。

葵ちゃん、とりあえず子爵様のご家族のところにお肉を持っていってもらえるかな?


『遠慮の塊』みたいなお皿がなくなればその後は続々と並んでゆく知らないオジサン、知ってる女の子。

いや、そんな『うう……家で留守番している子供たち、老い先短い年寄にも食べさせてやりたかった……』とかいいながらチラチラと見られても土産までは持たさないからね?どうしてもというなら肉をそっとポケットにでもしまって持ち帰ってくれ。バターでベットベトになると思うけど。


てか、リアちゃん、料理を配ってくれるために並んでるんだと思ってたんだけど……まだ食べるんだ!?

いや、もちろん構わないんだけどね?お腹、大丈夫なの?……自前の胃腸薬があるから平気だと。それならいいんだけど……別に今日しか食べられないものでもないんだからそんなに詰め込む必要はないんだよ?


いつも通り、遠慮なく食べる知り合いの女騎士様たちと、遠慮がちにおとなしく食べるオッサン連中。

いや、一度出すと決めたからには遠慮して貰わなくとも大丈夫だからね?野菜は……いらないか。果物とかアイスは食べるよね?



さて、思ったより時間がかかった昼食会の後。

食べ終わったお皿は勝手に消えちゃうので後片付けの必要がないってのはとてもありがたい。

子爵様にこっちが恐縮してしまいそうなほど礼を言われた。

部屋で少し食休みをしたあと、昨日も案内された応接間に俺と葵ちゃんと子爵様の三人で集まる。

昨日の交易関連の話の続き……なんだけど、彼の人となりなども分かってきたので基本的には子爵様に丸投げすることに。


「昨日は農作物だけの話だと思っていたのだが……魔の領域の獣の素材まで扱わせてもらっても本当に良いのかな?」

「ええ、知り合いの商人が居るわけでもないですし、この街で長期の滞在をするわけでもありませんので……丸投げが一番楽だという結論がでました」

「そうか……うむ、そこまで言ってもらえるならこちらとしても最大限の利益を提供できるよう頑張らせてもらおうではないか!」

「ふふっ、そちらに損がないように、利益の半分くらいは持っていってもらってもいいですよ?」


(葵ちゃんにしてはえらく太っ腹な発言だなぁ)

(もちろんリップサービスですよ?これで暴利を貪るようなタイプの人間だと分かれば……切り捨てて次から違う相手と取引すればいいだけですし)

(まぁその通りなんだけどね?あと、リップサービスってなんかこう……エッチじゃない?)

(貴方はいったい何を言ってるんでしょうね……)


そのあと、肉以外の獣素材を子爵様の屋敷の倉庫に全部預け、牛乳……は無いので山羊乳を市場にあるだけ買い占めてもらい、ローラさんの治療費として今用意できるだけの金額……金貨で80枚分のお金を受け取り、そのお金で牛……肉牛と乳牛の購入費用に、無理そうなら山羊乳の量産に当ててくれとそのまま預ける。

またまた子爵様にはもの凄く恐縮されてるけど、体の良い御用商人扱いである。


「ああ、話は少し変わるのだが、ヒカル殿たちがどこから来たのかという話を昨日したと思うのだが」

「ええ、南から来たのは嘘じゃないですよ?」

「それはもちろん信用している。いや、いきなり荒れ地に現れたという話で思い出したことがあってな」


「思い出した……といいますと?もしかして他にも荒れ地から来た人間がいるとか?」

「いや、荒れ地からではないのだがな、かれこれひと月近く前になるのだが、この国、ヴァルド王国と東にあるベルグ王国の国境近くに一夜にして『見知らぬ砦』が建てられたと王都より情報が流れてきたのだよ」

「そう……なんですか?」


いや、一夜城の話とか俺には何の関係もなくね?


「まぁ普通に考えれば我が国が建てた砦では無いのだからベルグ王国の砦ということになり、ギリギリこちらとの国境となる場所であるので慌ててこちらから苦情の書簡を持っていったのだがな?入れ替わりで向こうからも『いきなり越境して砦を築くとはどういう了見だ!』という意味の分からない手紙が届いたらしくてな」

「……つまり、両国ともに知らない勢力の砦が国境近くにいきなり現れたと?」

「俄には信じられぬがそういう話らしい。その後、ベルグ王国から『こちらの勘違いであった、アレは砦ではなく学舎である』などという、さらに意味の分から言い訳の文が届き、中央でもだいぶ混乱した……と、こちらまで伝わったのだが、ヒカル殿はどう思われる?」

「どうと言われましても……胡散臭い話だなとしか……」


「ええと、少しよろしいでしょうか?」

「ああ、もちろん。アオイ殿は何か思い当たることでも?」

「いえ、こちらに連絡が来たのがひと月前という話ですが、その『砦』が現れた正確な日付、砦のかたち、その砦に籠もる者の風貌などはわかりますでしょうか?」

「現れた日は……おおよそ『ふた月前』だとは分かっているが、何ぶん他国の領内であるから他のことまでは……あやふやな話で済まない」


(ふた月前か……俺と葵ちゃんがこっちに飛ばされた頃だな。あれだ、無理やりこじつけようとするならその『砦』って)

(そうですね、何の証拠もないですから思いつきだけの話になっちゃいますけど……)


そこで、初めて二人の心の声が重なる。


((桜凛学園……))


なのかねぇ……。



―・―・―・―・―



よし!(元々の)タイトル回収!

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もしも『惑星開発ゲープレイヤーのおっさん』と『異世界モノオタクの女子高生』が一緒に異世界転移に巻き込まれたら? あかむらさき @aka_murasaki

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