2024.8.23 あんにょん⚾️狸球児のおミヨです🐾

 こんにちは。あんにょんはせよ。

重清しげきよ狸ばなし』のおミヨです。


 この春から、徳島本町に店をかまえる「ヒプノサロンいせき」で、セラピストの海四みよんさんのもと、ヒプノセラピー施術の見習いをしております。もちろん、きっちり人間の娘姿に化けて店に出とります。

 昨年まで、狸学校・徳島県立太刀野山たちのやま農林高校野球部で甲子園を目指しとりました。もちろん、練習も試合も、県高野連の仕様書どおりに化けてやってました。

 狸は化けてナンボの商売です。

 頭のてっぺんから足の先まで毛一筋出さんよう変化へんげして、耳や尻尾が飛び出んよう細心の注意を払います。


 徳島県内ではウチら化狸はもう公然の秘密みたいなもんで、阿南方面の化猫もそうなんやけど、人間様も「ああ、連中また出とるなあ」ぐらいに思うてるようです。変化の技が微妙なチームメートの中には、三振した拍子に尻から例のモノを出してしまうもんもおります。球審に注意されてあわてて尻尾しもうて、狸隈浮かびかけた顔でテヘペロしよりますが、まあそれはご愛敬いうもんでしょう。


 どちらかいうと、人間様同士の差別の方が深刻や思います。


 今年の夏の甲子園に、韓国系の民族学校の流れをくむ高校が快進撃して、多くの在日コリアンや韓国の人たちを力づけ、勇気と希望をもたらしています。一方、学校の校歌の歌詞が韓国語だということで、甲子園に韓国語の歌が流れるのはけしからん、とわけわからんことを言う人間様もだいぶんおるようです。


 徳島本町の店に来られたお客さんと、たまたまその学校の話になりました。

 お客さんは京都の人で、仕事の関係で徳島に来られた言うてました。

 お客さんの名前は、ウチがはじめて見る韓国の名前でした。

「廉明辰」と書いて、「ヨム・ミョンジン」と読む、そう説明を聞いたのですが、ウチ、目を丸うしたまま固まってしもうて、お客さんに

「そうですよね、難しいし、読みにくい名前ですよね」

 と言わせてしもうたんです。


 ちょうど店のテレビで高校野球の中継をしとったけん、ウチは京都の代表すごいな、と言うたんです。

 ほしたらヨムさんがこない言わはったんです。


「実は、親戚の子がその学校の生徒なんです」


 ウチはうわあっ! 甲子園や! と一気に舞い上がってしもて……。


 お客さんは苦笑いして


「いやいや、野球部ちゃうんです。管弦楽部でカヤグムという韓国のお琴を弾いています」


 と言うてました。

 ウチはすっかり毒気を抜かれて「はあ?」いう顔しとったと思います。


「みっちゃん、あんたな、学校の全員が野球部ちゃうんやで」


 と海四さんに突っ込まれて、すっかりへどもどしてしもうたウチは、


「お客様、日本語お上手ですね」


 なんて間抜けなこと言うてしもうたんです。


 お客さんはにっこり笑って


「私も父も日本生まれで、学校も日本の学校でしたから、どちらかいうと韓国語の方がわからないんです」


 とおっしゃられました。


「みっちゃん、台所からお茶もってきて。カモミールな」


 いま思うと海四さん、かなりハラハラしよった思います。

 お恥ずかしい限りです🐾


   ***


 お客さんを見送ってから、海四さんといろいろ話しました。


 日本と韓国・朝鮮は一衣帯水の隣国なのに、なんしに隣国の人の名前にこないになじみが薄いのか。同じように、ウチらはなんしに隣国ではメジャーな伝統楽器の「カヤグム」の音色すら、一度も聞いたことがないのか。


 野球部が甲子園に出て、在日コリアンの人たちが民族学校の流れをくむ学校の活躍に勇気づけられるのは、それは確かにそなんやけど。また、それをきっかけにこの国のマジョリティが在日コリアンの存在にいい意味で注目する――それも確かにそなんやけど。

 ほなけんど、その反動でたくさんの大事なこと、たくさんの人権侵害が見えんところに押し込められてしまう、そういう一面が相当あるんちゃうやろか?


 管弦楽をやっている廉さんの親戚の子にしろ、野球部員以外の男子生徒をはじめごくごく普通の生徒にしろ、学校で毎日、言葉や歴史、文化など韓国・朝鮮のことを地道に学習しよる。それぞれの高校生活を、それぞれの夢をもちながら、それぞれのペースで過ごしている。そんなひとりひとりの存在が、野球部の栄光の単なる添え物扱いになるとしたら、これ、ほんまにゆゆしきことや。


 たしかに、優勝がきっかけで民族教育が広く知られる、という文脈も、ちょっと見にはすばらしいことのように思えるけど、果たしてそれを手放しで称えてしまうだけでええんやろか? ――と海四さんが言うとった。学校教育全体の中身のもつ価値によって広く共感を得るんではなく、トリクルダウン式に広がるのを期待する構造になっとる。海四さんは見ててハラハラするって言うてた。ウチにはようわからんとこが多いんやけど、考えてみたらそうかもしれへんなあ。


 その状況の中で、一部のネトウヨが「あの学校の校歌の歌詞が韓国語なのはけしからん」「歌詞の内容もけしからん」とネットのあちこちで言うて言うてしよる。なんしに甲子園で韓国語が流れたらあかんのか、ホンマ意味わからん。即日、京都府知事がヘイト投稿を削除せい! とまともなこと言うてるんやけど、肝心かなめの高野連はダンマリや。主催の新聞社なんかも同じや。しょせんウチら球児は、人獣分かたず使い勝手の良い「青春コンテンツ」以上の意味なんぞこれっぽちもないいうことが、これで白日の下に示された、いうわけや。


 ウチら太刀野山農林は勝ったらいつも校歌のかわりに『阿波の狸』の大合唱なんやけど、もし人間様の高校野球大会に狸がポンポコえらそうに! なんて言われたら、ごっつ腹立つし、悲しいなるわ。


 海四さんの高校時代の話なんやけど、甲子園出場校の野球部関係者が大会開始前に女子生徒に性暴力を振るう事件があって、それが闇から闇に葬られた、いう噂を聞いた、言うてた。あくまで噂やけん、ほんまのことかどうかはわからへん。ほなけんど、噂が出るだけのことはきっとあったんやろな、とウチも思う。人間様はほんまに怖い。よってたかって被害者の口塞ぎにかかるんじゃけんな。


 学校いう場はどの生徒も等しく扱う、というのが最低限の前提や思うんやけど、甲子園はいとも簡単にそこに不均衡を持ち込むんよね。吹奏楽部の応援なんか、狸の目から見たらもう、まんま「活躍する男/支える女」構造やで。全校応援の強制とか、どんだけやねん! 応援する/せん、いう個人の内心に土足で踏み込む暴力に、なんしに一般生徒がさらされなあかんの? 

 

 こういう数々の矛盾、いうか、おかしなことが、「同胞」の活躍でエンパワメントされることのいわば副作用で、結果的に「ないこと」にされてしまう。そして、仮に誰かがそれを指摘したら、なんや、指摘した方が間違うとる、みたいにされてしまうんよね。それも、甲子園でコリアンが活躍するのが気に入らんのか! 高校球児の努力を否定するのか! みたいな、時空の歪みにハマりこんだような受け取られ方すらされて。これ、ほんまかなんで。


 狸の浅知恵では、どないしても一向にまとまらへん。

 甲子園を巡る「一般生徒」軽視・蔑視と、抜きがたいマチズモと、日本社会のアジア人差別がごっちゃごちゃに絡みまくって、どっから手えつけたらええかわからへん。

 ああ、はがいたらしいことこの上ないわあ。


 ほなけんど、ウチはこれだけは言いたい。

 韓国・朝鮮のどこが悪い。

 在日アジア人が自分の名前すら名乗れないぐらい生きづらくさせられとる現実って、ほんま何なん?

 英語はよくて、韓国・朝鮮語はあかんって、誰が勝手に決めたんや!

 それから、ウチ、これ一番言いたいんやけど、野球部だけを持ち上げるの気持ち悪い。特別扱いまじヤメロ。

 「青春」は他から奪ってかまわん、いう特権を意味する言葉ちゃうんじょ。

 あとな、人の命の重さに軽いも重いもないんやで。

 狸も同じや。

 もと野球部の狸がこう言うてるのや。人間様、ホンマたのむでよ。



 🐾追伸🐾

 韓国の大統領が優勝校に祝辞を送ったらしい。テレビのニュースでしとった。

 海四さんは「気持ちはわからんでもないんやけど、これはかなりヤバいな」とため息ついとった。

 さしずめ、太刀野山農林が全国制覇したら、百獣の王ライオンあたりがたてがみ振るって「全動物の希望」だの「人類とのさらなる友好促進のきっかけに」とか祝辞を送ってくるみたいなもんやろか? うわあ、なんやお尻のあたりがもぞもぞしてきよった。ウチらは全動物を背負って野球しよるのとちがうけど、人間様も同じようなもんちゃうの? 今まで軽うに考えとったの、間違うとったんやろか?


 ほなけんど、野球の勝ち負けに、国だの民族だのおっかぶせてくるって、怖い。

 なんや、戦争しよるみたいや。

 お願いじゃけん、そういうのホンマやめてほしい。


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