第18話 そしてまた、唐揚げに回帰する。


「今日の夕飯は出前にするしかあらへんな。クウガー・イーツでなんか頼もか。」



 それも致し方なかった。魔王のせいで、我が家が大惨事に見舞われ、夕飯の準備をする時間がなくなってしまったからだ。あの後、魔王はビニールひもで簀巻きにして、タニシの犬小屋に放り込んだった! 明日のゴミの日に出すつもりや!



「何食べる? なるべく早く来るヤツにしとこか。」


「シースーが食べたい! 魔王撃退を記念して、“レッツ・パーリィー!”を決め込みたい!」


「高いので却下!」


「えぇ~? ケチ!」



 オカンに即却下された。なんでや! 窮地に陥った我が家を救った救世主はウチなんやで! 決定権は当然のものだと主張する!寿司くらい食べたい。



「ウチなんて、シュークリームとか、アイスとか、シュークリームに加え、アイスまで取られたんやぞ! 被害が一番大きいんやで!」


「ご主人、まだ根に持ってるでヤンスね……。」 


「あったりめえよ!」



 オカンとお兄ぃは魔王の魔力から解放したが、タニシは据え置きにすることにした。今のところ、メリットしかないのでそのままの方がいいと、みんなの意見は合致したのである。よってタニシは本日をもって、外飼いから座敷犬へと昇格するものとした。魔王を犬小屋に放り込んだのはそのためだ。



「被害が一番デカいのはわしのほうじゃい……。○○○○がお亡くなりになってもうたんや。もう、お婿に行けない……。」


「何言うとんねん。お前は長男やろがい! 家を継ぐのはお前や! それにお前のソマツなモンよりシュークリームの方が尊いんじゃ、ボケぇ!」


「ヒドい! ヒドいわっ!!」


「ひどいでヤンス。男のしんぼるがゾンザイな扱いを受けてるでヤンス。」



 アホ兄ぃは股間を押さえながら、床に突っ伏しすすり泣きを始めた。この軟弱者めが!



「無難にポッカポカ弁当にしといたわ。唐揚げ弁当頼んどいた。」



 くそう。油断も隙もない。オカンは昔から、そういうことをやりおる。腹黒い!



「どさくさに紛れて、注文すなあ! しかも唐揚げって……昨日の夕飯ともろカブリしとるやんけぇ!」


「せやったっけ? 最近、物覚えが悪ぅなっとるさかい、しゃらへんねん。それか、アンタが暴力振るったさかい、ショックで忘れてもうてたんや。イタかったわぁ!」


「ファブ・ニール吹いただけやろ! 後でぶっ倒れたんは自分のせいやんけ!」


「ただいま~。おっ、珍しく家族会議?」



 そのとき、オトンが帰ってきた。相変わらず空気が読めてない。どこを見たら、家族会議に見えるねん! 乱闘騒ぎになりかかってるっちゅうねん! 


 ちなみにオトンの名前はダイゴク。漢字で書くと大極。仰々しい名前過ぎる! ちなみにこれも平城京繋がりで大極殿が由来らしい。そろそろ終わりなのに誰得なの、この情報……。



「おパパ上! お帰りでヤンス!」


「おお~、タニシ、元気やったか? 会いたかったで!」



 ちょい、ちょい! 何かおかしいことに気付け、オトン! タニシがしゃべってることを普通に受け入れるなぁ!



「はあ、魔王を成敗したのに、なんか平和になった気がせえへんわぁ。これが俗に言う、胸クソエンドいうやつかなぁ。」



 ああ~、もう疲れたから、飯食うたらさっさと寝よ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ムウ、こ、ここは?」



 気が付けば、暗くて狭苦しい場所に押し込められていた。



「う、動けない! 何だこの薄っぺらい紐は? 薄いくせにやたら硬い! これでは脱出出来んではないか!」



 見たこともない物質で出来ているのは間違いない。奴め、こんな物まで持っていたとは!



「くっ、しかもこの場所、犬の匂いが半端ないではないか! まさか……犬を監禁、束縛していた場所かぁ!」



 おのれ、魔王を犬畜生同然の扱いにするとは、恐れを知らん奴め! 悔しい!



「くううぅ、しかも空腹で体に力が入らない!浄化アイテムを喰らって弱体化したというのに、更に窮地に立たされているではないか!」



 も、もう耐えられない! こんな惨めな思いをするのは生まれて初めてだ! 低級な魔族が人間どもに封印されたりしていたが、コレが封印されるということなのだろうか? ならば、我は潔く自決するまでだ!



「む、無理だ! 怪我を負っても出血しない呪いを自らに施したことを忘れておったぁ!」



 じ、自決することも出来ん! もうダメだ。こんな惨めな思いをするくらいなら……思考を止めて、石になったフリをしよう。


 そして、彼は考えるのを……やめた。

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【完結短編】異世界最強魔王、現実世界を蹂躙……出来ませんでした!! Bonzaebon @Bonzaebon

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