完全犯罪は俺の“助手”にしかできない。
山本貫太
序章 密室に浮かぶ発光した溺死体
容疑者は超能力者だった。
死体は密室で宙に浮いており、煌々と光り輝いている。そのうえ、直接的な死因は溺死だった。誰もが超能力者を疑い――、恐れた。ただ一人、俺を除いて。
「大丈夫だ、助手。おまえがこんなことをしないことくらい、俺が一番よぉく知っている」
「いや、オレならできますよ。こういう殺し方」
助手のクウゴは手近な花瓶を宙に浮かせた。「ぎゃあ」「わぁ」と館主人やメイド、その他諸々が悲鳴を上げる。
「で、こうっスよね」
かざした手のひらを少し捻ると、徐々に花瓶が光り輝き始めた。
「あ、死因は溺死なんでしたっけ。じゃあ」
ナメクジのように花瓶から濁った水が這い上がり、生けられていた花の花弁にまとわりつく。
「ジャジャン。宙に浮かぶ発光する溺死体の作り方っス」
整髪料の「せ」の字も知らないボサボサの髪、鍛えすぎたら超能力を使えるようになったというだけのことはある筋肉質な身体……、それらに似つかわしくない子犬のような瞳が俺を見つめる。
「コ、コイツが……こいつが犯人じゃねえか!」
館主人がブルブルと全身を震わせながら、クウゴを指差す。ごもっともな指摘だ。
「え、オレ人なんか殺さないっスよ?」
ぽかんとしたバカ面で館主人の足元に花瓶を下ろすクウゴ。「キャン」と悲鳴を上げ、館主人は一歩退いた。
俺はクウゴの頭を軽く小突いてから、咳払いをした。
「皆さん、落ち着いてください。確かに、うちの助手なら密室で光り輝く溺死体をつくることくらいワケないことです」
そうだそうだ、と野次が飛ぶ。
「ですが、超能力を持っている助手がわざわざ超能力を見せびらかすような死体をつくるはずないでしょう。バカな助手ですが、そこまで愚かじゃない」
可愛らしいメイドの顔に「バカで愚かそうだけどなぁ」の表情が浮かんだが、無視して続けた。
「つまり、この館に私と助手を招いた“館側の住人”に真犯人はいるに違いありません」
俺は両手を力強く叩き、皆の視線を集める。
「三日後、真犯人の名前をこの大広間で告げます。もし、それまでに私が犯人を見つけ出せなかったら、どうぞ助手を縛り首にでもしてください」
クウゴがニコニコしながら、俺を見つめる。俺のことを完璧に信じ切っている、いつも通りのバカ面だ。
俺はクウゴを手招きし、耳打ちをする。
「万一、この謎が解けなかったら、俺ごと瞬間移動して逃がしてくれ……」
完全犯罪は俺の“助手”にしかできない。 山本貫太 @tankatomoma
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