狡猾ほど嘘に塗られた少年は従順な小説家

前半は、老いて才能の枯渇に行き詰まりながら著名な作家という地位を維持するため、若い才能の作品を自作として発表する大人の狡猾さを、後半は行き違いからこじれていく様に寂しさと悲しさに囚われる姿を読んで、自分の見方や歩法は常に一方向であり自身の視野の狭さを自覚し、傲慢にならぬよう最低限の優しさである謙虚さを持たなければならないと気付かされる。

一文が短く、端的で読みやすい。
文章の表現にこだわりを感じる。
視覚よりも聴覚を意識した描写が多いのが特徴。
屋敷にいってからは読むことを禁じられているため、耳から入る情報に意識がいくようになっている主人公を描いているからだろう。

先生の名前で出版されていようと、書いた作者である主人公の作品をずっと読んでくれていた大切な読者を、傷つけてはいけなかったのだ。
色々な人と出会って人生経験を積んでおらず、精神的に幼い部分が残っているゆえの過ちだったと思う。

いますぐ、彼を追いかけることを切に願う。
得意の文章で、自分がこれまでどう生きてきたのかを手紙に書いて、彼に読んでもらい、君が好きな作家は自分なんだと告げてみたらどうかしらん。