覗き見るもの

きょんきょん

年賀状

 

 あれは今から五十年程前――まだ私が小学一、二年生の頃の話だ。当時住んでいた実家には私を含めた三世代が一つ屋根の下で暮らしていて、毎年正月になると年賀状が束となって郵便受けに投函されていたのだが、その中に一通――祖父宛におかしなハガキが混じっていた。


 差出人の名前も住所も一切書かれていない。切手も貼られていないそれは賀新年を祝う言葉の代わりに、赤文字で一言。


「あと一年」


 とだけ記されていて、祖父をはじめ家族の誰もがただの悪戯イタズラだと向きもしなかったのだが、その年の大晦日に祖父は心筋梗塞を患い突然死した。


 それから十数年後の正月には、父のもとにも同じハガキが届いて一年後の大晦日に浴槽で溺死しているところを発見された。


 悲しみは時間とともに薄れ、くだんのハガキの存在も忘れかけていたある年の正月――遊びに来ていた孫娘が一通のハガキを手に駆けてきた。


「おじいちゃん。このハガキなに?」



 


 


 

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