ついてくる
私が独身時代の頃、その街の相場と比較するとかなり割安な物件に住んでいた時期がある。その部屋はあけすけもなく言ってしまえば、〝事故物件〟だった。
これまでの入居者は全員が全員、不可解な現象が起きると訴えて最終的に精神的に病んでしまい、退去を余儀なくされていた。そんな経緯もあってか周囲の似たような物件より、三、四万ほどは安かったと記憶している。
金銭的に余裕がなかった私は、背に腹は代えられないとその部屋に住むことにしたのだが、いざ引っ越してみると話に聞いていたような変わった現象が起きることもなく、住んでいる間は何不自由なく過ごしていた。
ところがある日――当時付き合い始めた彼女を部屋に連れ込もうと、住んでいたアパートの横を通りかかったときに突如、横を歩いていた彼女が足を止めたのだ。
部屋に連れ込もうと気が急いていた私は、どうしたんだと尋ねると私の部屋の窓を見上げながら血の気の失せた顔で立ち尽くしているではないか。
何度声を掛けても反応を示さず、結局家に上がることもなく帰ってしまった彼女とは、その後自然消滅となってしまった。
それからしばらくして転勤が決まり、十数年経った今ではもう
あの日、彼女はいったいなにを見たのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます