囓られる

 認知症を患っていた祖母は、亡くなる間際に悲鳴をあげることが多かった。自宅のベッドに寝たきりで、家族の他に誰がいるわけでもないのに、「足をかじるな!」と感情的に叫ぶ姿を見かけることもある。


 ある日学校から帰ってくると、母さんの悲鳴が奥から聞こえて慌てて駆けつけると、腰を抜かしたお母さんが祖母のすねあたりを指さしていた。



「あ、あしが……」


 何事かと指差すほうへ視線を向けると、我が目を疑った。枯れ木のような祖母の足が、ナニかに囓られたように肉が抉れていたのだ。不思議と出血は見られず、祖母は両手を合わせてしきりに謝罪の言葉を宙に放っていた。


 それからしばらくして祖母は亡くなり、自分も親となった十数年後に古くなった実家をリフォーム工事をしていた時、それは床下の土の中から見つかった。


 出るわ出るわ。何匹か数えるのもバカバカしくなるほどのネズミと思わしき骨が。


 何故こんなものが床下にあるのか、なんとなく察していた母に尋ねると、重い口を開いて教えてくれた。どうやら若かりし頃の祖母は、家に出るネズミを見つけると片っ端から捕らえて、惨たらしい方法で殺処分を繰り返していたらしい。


 祖母はいったいなににうなされていたのだろうか――。

 

 

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覗き見るもの きょんきょん @kyosuke11920212

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