覗き見るもの

 目に違和感を覚えたのは先月のことだった。最初はまぶたの上から、墨汁が伝い落ちるように黒い影がちらついて見えたと思うと、日毎に正常な視界を侵食していって今では右目の視界のほぼ全部を奪われている。


 それだけではとどまらず、左目の半分ほども右目と同様に謎の影にむしばまれている。幾つもの眼科を巡ってわかったのは、視界を奪っている影の正体は原因不明ということだけ。


 眼になんらかの問題が見つかるわけでもなく、症状を抑えるために処方された点眼薬もこれといって効果を示さない。


 失明の二文字が頭をよぎるばかりで、焦燥感に襲われていたある日――スーパーで買い物をした帰り道に近所のお寺の前を横切ると、境内の方向から声をかけられた。


 振り返ると僅かに視力が残る左目に箒を手にした作務衣姿の坊主が映り込んだ。


「そこのあんた。もしかして目に問題を抱えたりしてないかい」

「ちょっと待ってください。なんで俺の目の病気の事を知ってるんですか?」


 すると坊主は、溜息を深く吐くと箒の柄の先を俺の目に向けてこう言った。


「病気なんかじゃないよ。あんたの目を覗き込むように、女性の霊が背中にしがみついてんだ。そりゃあ眼も見えなくなるわけさ」



 

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