第164話 邂逅する冒険者と少女
ギャァーーーーーーーアッッッ!!!!
遠くで響く男の悲鳴。だが、カエは振り返らない。
「ック! アイン! 君の死は忘れないよ!」
「カエちゃん!? なんでアインを置いて来たの?!」
「奴はおとり……じゃなくて……男だ。ここはぎせいに……じゃなくて……
「それ、大丈夫じゃないよね?! さっきも言ったけど、せめて棒読みをやめてハッキリ言ってあげてよ!」
逃げるために彼を犠牲にした。カエの心には罪悪感が重くのしかかる。
だが、ここで振り返って何になる? ここで足を止めては、アインの死が無駄になる。カエは心を鬼にして必死に逃げ出したのだ。
彼が稼いでくれた時間を無駄にしないために……
「——ダイヤモンドダストッ!!」
必死に駆けていると、ついに廊下の突き当たりへとたどり着いた。頃合いだと考えたカエはシステム【ダイヤモンドダスト】を起動し青く輝く破片を壁を目掛けて飛ばしていた。
木片を砕く音が廊下に轟き破片は壁を貫通した。室内に無数の陽光の光が侵入する。
そして……
「——オラァアアッッッ!?」
カエは壁を蹴った。すると楕円に切り抜くように壁が崩れ去り、外へと飛び出す。
「——きゃぁあああ!!!!」
廊下は2階だったみたいだ。空中に飛び出した突然の浮遊感にレリアーレが悲鳴をあげる。
「——フンッッッ!!」
だが、カエはたかが建物2階の高さから飛び降りる程度なんてことはない。少女2人抱えていようとそれは同じだ。
ガシャンッと壁の残骸が砕ける音と、同時に気合いに呻く声を溢して着地に成功した。
「はぁぁ……無事脱出だ」
「お疲れ様です。マスター」
「い、い、い、生きてりゅ……い、生きてりゅよぉ……」
だが、心労は大いにかかっていたらしく、抱えた2人の少女の体重に引っ張られるように地面に崩れ去り落ちて大きくため息を吐いたのだ。
一方その頃……
「君は……」
「こんにちは冒険者さん」
屋敷の中では少女と男が廊下で向き合っていた。
突然現れた少女にアインは目を丸くして驚いていた。
だがそんなことも一瞬でしかない。
「可愛らしいお嬢さん。こんなところで何をしてるんだい?」
一瞬にして笑顔を形成すると、小さな女の子に向きなおった。片膝をついて目線を同じに——どこまでも少女のためを思った態度を貫いた。
「ここは私のお家だよ? ここで暮らしているんだよ?」
「いや……それは……あぁ、そういうことか……」
「……ん? どうしたの?」
「いや、なんでもないさ」
その少女について沢山の疑問は抱えている。だが、アインは考えることをやめた。そもそも、思考を巡らすことは彼の得意とすることではない。そういうのは、いつもレリアーレに任せているのだ。今なら、フィーシア、カエだっている。
なら……
「君。お名前は?」
「サテラだよ。お兄ちゃんは?」
「アインだ。よろしくなサテラちゃん」
「——うん! よろしくアインお兄ちゃん!」
難しいことは彼女達に任せて、アインはアインの心情を貫くだけだった。
「それでサテラはずっとここにいるのかい?」
「そうだよ。ずっとこの屋敷にいるんだ」
「ずっと?」
「そう、ずっと!」
「ずっと……そうかぁ……」
この屋敷はおかしい。だけどそんなことは既に分かりきっている。
だがアインは街の一角でたまたま小さな女の子と知り合ったかのような、そんな態度でサテラと向き合った。
「ねぇサテラちゃん。外に出てみない」
「……え?」
「ここは1人で寂しいだろう? 僕と一緒に行かないかい?」
サテラは異常だ。そんなことはアインだって分かってる。
だが彼は人と人の間に隔たりを形成したりしない。だから目の前の彼女が例えどんな人物だろうが『一緒に行こう』だなんて提案ができるのだろう。
「行かない……」
「……え?」
しかし……サテラの拒否反応ともとれる小さな呟きが1つ。俯いて暗い表情を作りだし、たちまち笑顔を引っ込めていた。
「みんな私から離れていくの。カーラちゃんも、パパも、アカちゃんも居なくなった。どうせお兄ちゃんも居なくなるんでしょう? みんな悪い子だから居なくなるの! 良い子のサテラの前から居なくなるの! もうそんなのは嫌なの!!」
今までの境遇を悲痛に叫んで訴える。
かのにとって『一緒に…』は軽率に言っていい言葉ではなかった。
今まで散々と裏切られてきた。彼女の前から人は次々といなくなる。
アインも結局は目の前からいなくなる。
サテラはもう……それが分かっているから……軽はずみな言葉を押し除けて、アインに叫び散らすのだ。
「サテラちゃん。君は……えらいんだね」
「……え?」
だけれど……アインは怒らせてしまった彼女に謝ったりなんてしない。
むしろ、彼女を褒めたのだ。
片膝をついて同じ目線。俯いた彼女の頭に手を置いて撫でた。
サテラの身体はビクッと震える。褒められたこともそうだが、撫でられるとは考えてもいなかったのだろう。
「サテラちゃんはずっと1人だったんだろう?」
「う、うん……」
「それなのに……君はこんなにしっかりしている。普通は寂しがりそうなのにね」
「さ、寂しくなんかないもん! サテラは1人でも大丈夫なの!」
「だからさ……俺はただただ君が偉いって思ったんだ」
「そ、そうなのよ! 私は偉いの! 良い子なのよ!」
アインの賛美に少女は腕を組んで胸を張った。それはもう誇らしそうに。
そんな彼女の頭の上に置かれたままだった手が左右に動く。しかし、少女はそれを嫌がったりしない。その感触を大いに感じ入っていた。
「やっぱり、一緒に行かないかいサテラちゃん?」
「……ッ。わ、私は……」
その状態からアインは、再度少女に訴えかけた。
アインはまだ諦めていないのだ。
「行かないって……言った。私は……」
「でもさ。この世界は大きいんだ。俺は冒険者なんだけど……いろんなところを旅してる。このあいだなんか花の街で昔馴染みの子と会ってね。カエちゃんがその子達と喧嘩して……あ? カエちゃんってのは僕の仲間で……」
「カエお姉ちゃんのこと?」
「あれ? もしかして会ってたの……」
「うん……」
「なら説明は要らないか。でね——その子達とカエちゃんが勝負することになって……笑っちゃうぐらい卑怯な戦法で勝っちゃってね。それでも、最終的には双方仲良くなってね。最後にはチューさせろとか言って追いかけっこにまでなってさ。可笑しいだろう? ははは……」
「それで、結局お兄ちゃんは……何が言いたいの?」
「始めから言っていた通りだよ。僕と行こうサテラちゃん。外には楽しいことが一杯なんだから」
「——ッ!?」
サテラは揺れていた。目線をアインから外して、彼女は両手で力一杯スカートの端を摘んでいる。シワクチャになった裾はサテラの感情の代弁なのだろう。
「行かない……」
「……え? サテラちゃん?」
「行かないったら……行かない!!」
だけれど……サテラはアインを受け入れることがなかった。
気づけば、ピュッと風が鳴ってアインの頬をナイフが掠めた。薄皮一枚を引き裂いて赤い液体が表情を濡らす。
しかし……
「そうかい。ごめんねサテラちゃん。無理言っちゃったみたいだね?」
「……ッ!?」
アインは、怯えるでもなく優しく微笑んで少女を見つめ続けていた。
自分に凶器が向けられようとも彼の心は揺れることはない。今のアインはサテラのことだけを見ているのだ。
サテラには動揺が走った。
今までこんなに真っ直ぐと自分を見続けてくれた人はいなかったのだ。
「サテラちゃん?」
「——ッ!? もういいッ——もういいからッ! もう行ってよ!!」
「……え?! ちょっと……」
ついには、顔を真っ赤に染めたサテラは、アインの背中を押して彼を廊下の奥へと追いやろうとする。
「あれ……サテラちゃん?」
次の瞬間——一瞬の隙にサテラの姿が消えていた。背中を押された感触はしっかりと感じていたアイン。だが、少女を心配して振り返った時にはもう……彼女の姿はそこにはなかった。
ただ……
薄暗い廊下の奥から……
ありがとう
そう、小さく言われてる気がした。
世界観台無し女人化転生 〜ゲームキャラで異世界転生したのだが “異世界”と“転生体”とで『世界観』が違う!? 解せぬ!!〜 バゑサミコ酢 @balsamicvinegar
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