後方不注意
てらむ
後方不注意
「オォイ!ミッチー!斜め横断はやめろっていつも言ってんだろが!!」
いきなり前に飛び出してきたから思わずブレーキをかける
「ちょ、危ないしうるっさい!先生やっぱり男なんじゃないすか?それに別にいいでしょ!ここド田舎だし!後ろだって見てるんだし!」
「屁理屈言うんじゃねぇ!それにお前も十分声でけぇよ!……あと私は女だ!」
「道田先生、時間だから門番交代」
「おっ佐藤先生ありがとうございます!じゃあミッチー、明日からは絶対そこの横断歩道渡れよ、すぐそこにあんだから」
「はいはーい覚えてたら渡りますよー。てか先生そのあだ名やめてくれません?僕そんなプリンスみたいにカッコ良くないっスから」
この人は僕の担任兼国語科教員の道田詩織。見ての通り男まさりな性格で生徒にとても人気がある。だが教師陣には距離を置かれているようだ。かなりヤンチャだったらしく、噂によるとバツ2らしい。
まじ?
一生徒である僕自身も、このカラッとした性格にはそれなりに好感を持っていた。
だがしかし、到底受け入れられない価値観の違いが僕と先生にはある。
後方確認を
どうしてあの人は後方確認をしないで横断歩道を渡る生徒を注意しない!いくら横断歩道では車に停止する義務があると言っても、後ろを振り返りもしないで自転車に乗ったまま渡る方が危険だろう!学校で習わなかったのか?後方確認は大事だって!義務教育は何をやっている!
フゥ、少し落ち着いた。
第一、僕らは義務教育を受けに学校に来ているんだった。その内みっちり3時間ほど後方確認の重要性を説く講義が開かれることだろう。もちろん全員強制参加で。
火曜日最終の6時間目は現代文の評論の授業だ。
自分で言うのもなんだがこう見えて僕は成績優秀。みんなが昼食で腹を満たし、睡魔と格闘するこの時間。僕にとっては授業中に考え事をするのだって朝飯前だ。いや、昼飯後か。
日本語とは興味深いもので、「後ろを振り返る」という言葉にも複数の意味がある。
まずはなんと言っても後方確認だろう。僕の座右の銘だ。
次に自身の過去を思い出すというのもあるだろう。広く解釈すれば昔の行いを後悔し、考え直すというふうにも取れるだろうか。
それにしてもあぁ、後方確認、なんていい響きなんd
「じゃあミッチー、この文で筆者の言いたいことを答えよ」
「ええと………自身の過ちについて振り返り、これからに活かすことが最も重要だ…ですかね?」
「よし、全然違うな。ちゃんと授業聞いてたのか?放課後補習な」
「……ウッス」
くそう!今世紀最大の難問を僕にぶつけやがって!その上補習だと?そんなもの行ってられるか!
………いや、逆にありか。
―――キーンコーンカーンコーン―――
帰りのホームルームが終わった。
「じゃあミッチー、3階の数学演習室空けてもらってるから早めに来いよー」
「おい
「うるせーほっとけよ。そう言うお前もいびきかいてぐっすりだったじゃねぇか!」
「あーあーうるさくて逆に聞こえなーい。おれ先部活行ってっから早く終わらせてこいよー」
「わかってるよ」
てばやく準備を済ませたら教室を出て階段を2段飛ばしで降りる。早く来いって言われてたから急がなきゃな。
「失礼しまーす」
想定通り先生がいないことを確認したら、壁にかけられた家庭科室の鍵を取って職員室を出る。
「家庭科室は確か2階だよな」
いそいで階段を登る。もちろん2段飛ばしで。
「あったーコレコレ」
それで最後は3階だ。今度は焦らずゆっくりと。
呼ばれた教室の前まで来た。ドアは開いてるようだ。
「あいつ遅いなー。もしかして迷ってんのか?」
腕時計を見て、貧乏ゆすりしながら立っている。背中がガラ空きだ。
ドスッ
先生の背後に刃渡り17センチの獲物を突き刺す。
腕に伝わる確かな手応え。
白いワイシャツに真っ赤な血が染み込んでいく。
「駿、、?なんでだ、、、」
「なんでって、本気なの先生?本当に名前覚えてなかったんだ。まあ父さんがつけてくれたらしいし、仕方ないっちゃ仕方ないか」
「真っ当に先生やりたいならさ。いい人ぶるよりも先に、僕を捨てたってこと、ちゃんと後方確認しとかなきゃ」
後方不注意 てらむ @TOY101
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