第134話 青空

 夏のラスベガスの青く眩しい空。

 町中の小さな教会。


 集まった参列者が二列に分かれて扉が開くのを待っている。

 みんな、手に籠を持っていた。


 そこに、初老の紳士がタクシーを降りてくる。


「永山教授。遅いですよ」

 タマちゃんが籠を手渡す。


「公演が長引いてな。でも、フラワーシャワーには間に合ったようだね」

 永山はミナミたちのゼミの恩師だった。


「堀之内君、会計事務所独立したんだって?おめでとう」

 堀之内は頭を掻く。


「稲田君はコンサル辞めて商社に行ったって?コンサルの方が向いていたと思うぞ?」

 みんなが笑う。


「タマちゃんは、M&Aブティックに転職して活躍しているようだね」

「はい。ミナミたちの仕事も手伝いたかったので。初年度からコミッショナー合弁会社のFA(財務アドバイサー)を受注できたから、会社も喜んでくれました」

 ガッツポーズを見せる。


「で、橋本君は、今をときめくユニコーン企業のCEOだな。大学でも有名だ」

「おかげさまで。まあ、これもミナミとの仕事のおかげです」

 橋本は恐縮する。


 スポーツテックAIスコアリング技術は、プロレス以外のスポーツにも効果を発揮し、橋本の会社の評価額は当時の15倍を超える成長を見せていた。


「平はここまで大成したか。当時はレスラーになると聞いてショックだったけど、さすがだな」

「先生、もう平じゃなくて大沢ミナミですよ」


 すると、ミナミの入場曲が流れ、教会の扉が開いた。

 花吹雪を浴びながら列の間を歩くミナミと大沢。


「本当に幸せそうね」

「そうだな」

「……辛いなら、私が慰めてあげるわよ」

 橋本の回答に、タマちゃんはフラワーを投げる手を止める。


「……じゃあ、買収案件相談からよろしく」


 タマちゃんはあきれて溜息をつく。


「また、ビジネスパートナーで終わる気なの?」

「まあ、そうならないように頑張るよ」

 二人とも苦笑い。


「そこの二人。今からブーケ投げるから集中してよね。特にタマちゃんよ」

「え?何よそれ?」

 会場のみんなが大笑いする中、ミナミがブーケを青い空に向かって放り投げた。


 そして、ミナミは大沢に笑顔を向ける。


(……ねえ、全米進出達成した後、今度はどんな夢を見に行きます?)

(そうだな。女子プロレスをオリンピック正式競技にしたいと思うんだけど、一緒にやってくれるか?)

(うわっ、相変わらず壮大ですね……もちろんご一緒します)


 ブーケは横に一回転した後くるくると前転し、タマちゃんの胸をめがけて飛んでいった。


 完

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プロレスガールがビジネスヒロイン? どまんだかっぷ @domandacup

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