第13話 エピローグ

 オークの拠点殲滅作戦の翌日、エミリ達はルムール要塞にいた。

 軍部から作戦の成功と、死者への弔いが行われた。


 冒険者パーティからの死者はスコザ一人だった。オークキングに遭遇した3組のパーティの犠牲は最小限に抑えられたといってもいい。オークキングは坑道の奥に閉じ込められたままだ。幹部の一人が兵士と勇者パーティを集めて説明を行う。


「鉱山跡にある坑道はすべて探索が完了し、オークキング以外の魔物はすべて排除されたと確認された。負傷者は少数、残念なことに勇者パーティからスコザが亡くなってしまった。彼が倒されたキングオークだが、今後坑道に入る魔物がいないよう偵察を出し、餓死させるまで待機、弱っているようであればこちらから攻勢しかける。勇者パーティの方々はこれ以上の助力は求めない。少ないが報酬も出すので受け取ってほしい」


 涙を流す四人の女性達、スコザのパーティメンバーだ。彼は遺体すら返ってこない。あのオークキングのいる部屋に死体があるからだ。最悪飢えたオークに食べられてしまうかもしれない。悲しみに暮れる女性達にかける言葉が見つからず、皆黙ってしまった。それを見てアレンが声をかける。


「彼のおかげで僕達はここにいます。僕達は彼の分までこれからも旅を続けていきます。」


 死んでしまったものは戻らない。いけ好かないやつだったが、その実力は本物だったし、最後まで仲間を守ろうとしてくれていた。噂だけで判断していたが、彼は真の勇者だった。アレンは短い言葉に強い意志を込めていた。


「勇者パーティの方々にはこちらでしばらくの間宿舎を貸し出す。疲れも溜まっているだろう。充分な休息を取ってくれ、それでは解散」


 軍人がそういうと、各々移動を開始する。武僧の集団はまだまだ修行が足りないと、そのまま僧院へと帰っていった。老人達はとても疲れたようで宿舎へと直行した。スコザを失ったパーティはしばらくその場で慰めあっていた。


 兵士達もそれぞれ各自の職務に戻り、エミリ達も宿舎へと向かい、用意された部屋の一つに四人で集まった。カーズが話を始める。


「今回は俺も足を引っ張ってしまった。申し訳ない。二人が助かったのは奇跡だ」

「カーズさんはよく戦ってくれましたよ。私こそ十分に回復できなくてごめんなさい。本当に皆無事でよかったわ、彼には申し訳ないけどやっぱり仲間の命の方が大事だもの」

「ボクは信じてたよ、アレンならきっと助けに来てくれるって、やっぱりアレンはすごいね」

「と、当然だろ。でもあんなボロボロになるまでに助けられなくてごめん。やっぱり僕はまだまだだよ」

「そんなことないよ!アレンが来てくれてボク助かったんだなって思ったもん!!」


 オークキングを倒すことは出来なかったが、全員無事に帰ることが出来た。パーティを組んでから初めて命の危機を感じた依頼だった。これからもこんなことはいくつも続いていくだろう。それなのに自分の思いを伝えなくてもいいものか。後悔してからでは遅いのでは。アレンは思案する。

 そもそも僕はエミリを守れる強い男になれているのだろうか、オークキングを引き連れてくれていたカーズさんの方がよっぽど頼りになるんじゃないだろうか。色々な感情がごちゃ混ぜになりアレンはエミリによくわからないことを聞いてしまう。


「エミリは今回どう思った?初めて命の危険を感じたと思うけど、これからも旅は続けていくのか?この功績をもって勇者を引退してもいいんじゃないか?そしたらまた安全な町で暮らせるし」

「……ううん、だからこそだよ。あんな化け物みたいなやつがまだいるって考えたら、やっぱりボク達は戦い続けなきゃいけないんだよ」

「でも、他の皆が死ぬかもしれない、そんなに僕達を信頼できるのか?」

「当たり前じゃん、皆のことは信頼してるし、大好きだよ。だからこそ守りたいし守られたい。(アレンみたいな)強くて鍛えられてる人から」

「そうか(カーズさんみたいな)強くて鍛えられてる人にか……そうだな。変なことをきいてすまん。エミリの決意は最初から変わってないもんな」

「おいおい、俺達の意志はどうなるんだ。」

「そうですよ、仲間外れはよくありまっせーん」


 四人の笑い声が部屋の中に充満する。苦しいこと、厳しいことはこれからもあるだろう。それでもこの四人でする旅は掛け替えのないものだ。誰も失いたくないし、失わせたくもない。皆の意志は統一されている。


(ただ、まーた勘違いしてそうなのよね}


 クリコが二人の表情を見てほくそ笑む。エミリは未だに自分の感情に気づいていないし、相変わらずアレンは思い違いをしているだろう。

 そう思うには充分なくらい両者の表情に表れていた。

 大好きなアレンに救ってもらって嬉しくてたまらないエミリ。

 自分のことを褒めてくれたのにカーズのことだと勘違いをして暗い顔をしているアレン。




 鈍感な勇者と勘違いしている賢者

 この二人のすれ違いはこれからも続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鈍感勇者と勘違い賢者のままならない恋愛事情 蜂谷 @derutas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ