第12話 守ってくれる人
アレンは憤っていた、自分の力のなさに。
瓦礫で埋め尽くされた道を見て、それをかき分けようと岩をどけていく。
向こう側は見えない。このままチマチマとやっていては何日かかるかもわからない。アレンは危険を承知で、そこから離れて詠唱に入る。
「魔力の根源から発せられる炎の素養よ、その力を我の為に顕現せよ。深く望むその力を現せ。その爆発はすべてを破砕し、その炎はすべてを焼き尽くす。心の臓にに刻まれし印よ、今一度その姿を現せ。ファイアービックバン!!」
アレンの杖の先から放たれた魔力の塊が、落盤した坑道の瓦礫に触れると、そこを中心に大きな爆発が起こる。
その衝撃はすさまじく、新たに落盤してしまう危険を孕んでいた。最悪さらに落盤してさらに坑道が埋まってしまうかもしれない。
アレンはそんなことは分かったうえで魔法を放っている。自分が生き埋めになるかもしれない。そんなことより間に合わずにエミリを助けられない事の方が怖い。オークキングを相手に一人でどうにかなるわけがないのだ。アレンは救助できる可能性の高い方法を取ったに過ぎない。
幸いにも、放たれた魔法は落盤した岩場を完全に破壊し、その衝撃はオークキングの部屋に向かい、ぽっかりと穴が開いた。
アレンはまた崩れて塞がれてしまう前に部屋へと入る。
そこにはオークキングに手首を捕まれ、破れた衣服を身に包むエミリの姿があった。
「エミリ!!!」
アレンは叫ぶと同時に剣をもち詠唱を始める。無詠唱ではダメだ、せめて簡易詠唱出なければオークキングを怯ませることすらできない。
こちらの叫び声に気づいたオークキングが、エミリを離しアレンへと向かっていく。
「風の刃よ、唸れ。ウィンドカッター!」
アレンが不可視の風の魔法を相手に放つ。それがオークキングに当たる。何も見えないところからの衝撃に、ふらつくオークキング。アレンの放った魔法では、その程度の威力しか相手に与えることが出来ない。
アレンはふらついた敵の横を通り過ぎ、倒れているエミリの元に向かう。
「エミリ、今、回復させる。歩けるか!?」
「ちょっと今は無理かも……でもアレンが言うなら這ってでもいくよ」
アレンが王都で覚えた簡易な回復魔法をエミリに与える。接地面が多いほうが効果が大きいので抱きしめるようにして発動させる。クリコのそれには劣るが、アレンの魔法でエミリが歩ける程度に回復させるには充分な時間があった。
もちろんオークキングもそれを黙ってみているわけもなく、抱きしめあっている二人に向かって拳を振り上げ、頭から潰そうとする。
「危ない!」
エミリがアレンを押し出し、ぽっかりできた空間に、オークキングの拳が落ちる。
すんでのところで回避した二人は、今にも崩れそうな坑道に向かう。元気に動けるアレンと違って、エミリの移動は歩くのがやっとという感じだった。
敵が二体いて逃げ出そうとしている、そして一人は元気に動き回り、一人は息も絶え絶え、どちらを狙うかは明白だった。オークキングがエミリを標的にする。
そこに剣を持ったアレンが立ちはだかる。
「エミリにはもう触れさせない!俺が相手だ!!こっちを見ろ!!!」
よろよろと坑道へ向かうエミリを庇う様にアレンはオークキングの攻撃を防御する。
剣士ではないアレンの力はオークキングと比べて大きく劣り、一瞬で吹き飛ばされると誰もが思うだろう。しかし10歳から欠かさず続けてきた鍛錬、カーズから教わった剣術、身体能力魔法による強化、それらが複合的に重なり、その一撃を耐えて見せた。
アレンは魔族との戦いで放った火と水の複合魔法で霧を作り出し、オークキングの視界を防ぐ。いきなり現れた霧にオークキングは混乱している。
その隙にエミリの肩をもち、なるべく早く歩いて進む。
坑道まであと少し、そう思ったとき、霧から逃れたオークキングがこちらを逃がさないぞと言わんばかりに襲い掛かってくる。
アレンは力を振り絞り、坑道の外にエミリを投げ入れる。
「アレン!ダメ!!」
エミリの叫びを聞きながらアレンは剣を構える。
エミリを庇って死ぬような満足げな目、そんな目をアレンはしていなかった。この難局を乗り切って見せた。そういう自信の籠った強い瞳だった。
「この一撃だけだ。覚悟して受けろよ!!」
アレンは今までの強化に加え、さらに武器に強化を付与する。
切れ味の増した剣がオークキングの拳と交わり、その手を手首まで切り裂く。同時に剣は折れたが、あまりの痛みにオークキングが膝をつく。
倒れたオークキングを知る目に坑道へとアレンが駆け込む。するとオークキングが倒れた衝撃で坑道が崩れ、塞がれようとしていた。
「アレン、飛んで!」
エミリの掛け声と共にアレンが落盤している坑道へと飛び込む。
それを包み込むかのようにエミリが受け止める。その瞬間坑道は塞がり、オークキングとの戦いはそこで終わりを迎えた。
「終わったの…か」
「そうだね、やっぱりアレンは助けにきてくれたね、ありがとう」
「エミリ……ごめん、君を危険に晒して、置いてきてしまって、でも生きていてくれてありがとう」
二人は安心したのか気を失いそうになる。
そこにコリンとボロボロになったカーズが駆けつける。
「二人とも!大丈夫か!!」
「……みたいね、カーズ静かにして」
コリンは、抱き合いながら眠る二人にそっと近寄り回復魔法をかける。
「お疲れ様」
まだ脅威は去っていないが、二人が助かったことに安堵し、それぞれを背負いそこを後にした。
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