第11話 一対一

 大変だ。

 カーズさんが気を失ってボクがオークキングと戦わなければいけなくなった。

 コリンの力じゃカーズを背負って移動なんて出来ないし、近接戦闘はアレンには無理だ。少しは戦えるかもしれないけど、ボクが戦った方が何十倍も時間が稼げる。


 そんなこと賢いアレンが分からないはずがない。僕は迷っているアレンに叫ぶ。ボクが残るのが最善だ。そう言うとアレンが悔しそうな顔をしながらカーズを背負って離れていくのが見えた。

 ボクはそれを見届けるとオークキングと対面する。スコザさん、カーズさんと連戦したにも関わらず、その体に合ったはずの傷は回復されている。

 体力もまだまだ余裕がありそうだ。


「さぁ、次はボクが相手だよ」

「ウオオオオオオオオオオオ」


 オークキングの咆哮に体全体が痺れる。

 絶対に負けない。アレンが絶対来てくれる。だってアレンは強くてボクを守ってくれる人なのだから。



 幾度かオークキングと打ち合って分かったことがある。その体に傷はないが、やつが使う剣は相当刃こぼれしてるし、装備にもほころびが見える。元々そうだったのか、二人と連戦したことで傷んだのかは分からないが、相手の装備を破壊することで戦いを有利に進めることが出来る。


 相手の剣を受けながら、同じ箇所をしつこく攻撃する。オークが気づいている気配はない。何度目かの打ち合いで、オークキングの剣にひびが入る。

 さすがにそれには気づいたのか、相手が一度距離を取る。ひびの入った剣を見て、ブンブンと振り回している。


「あと少しだ、あの剣さえ破壊できれば攻撃力は大きく落ちる」


 ボクは有利なことを感じ、少し気を緩めてしまった。

 するとオークキングは突然唯一の出入り口に走っていく。

 しまった。アレン達を追いかける気だ!間に合わない。


 そう思った。しかしオークキングが取った行動は違った。もう長くはもたないヒビの入った剣を坑道の上の方に叩きつける。

 その攻撃で鉱山全体が揺れたかと思う衝撃が襲う。するとガラガラと大きな音を立てて坑道の天井が崩れ去る。半分ほど埋まった道を見て、相手の狙いが分かった。


 閉じ込める気だ。

 何を考えているか分からないが、ボクの退路を断つつもりだ。まずい、これ以上攻撃されて完全に道を塞がれては、誰も助けには来てくれない。そう思って駆け出しているが、オークキングはその折れかけた剣で何度も岩場を殴る。ボキッと剣が折れても殴ることをやめない。


「やめろぉおお!」


 ようやくボクの攻撃が届いたころには、道は完全に塞がってしまった。

 

 剣が折れたことで相手の攻撃は弱まるだろう。しかしそれでもオークキングの力は強大だ。防具は壊れていないし、体は万全。しかもこちらは退路を失い、逃走という手段も取れない。援軍もこれない。狂戦士化して体のあちこちが痛いままだ。

 

「さすがに、ちょっとまずいかな……」


 オークキングは笑っている。なにをかんがえているのかわからない。

 このままボクを倒しても、あとから来る人達に倒されてしまうのがわからないのだろうか、それでも一矢報いようとしたのだろうか。いくら考えても出ない答えに思考を割くのは無駄だと思った。


 オークキングがゆっくりと距離を詰めてくる。それでもまだ負けると決まった訳じゃない。相手だって生き物だ。心臓を止めれば死ぬし、首と胴体が離れても死ぬ。可能性は0ではない。


 剣を失ったとは思えないほどの覇気を発して、殴りかかってくる相手の拳を剣で受け止める。


「ぐぅ!」


 何か吹っ切れたのか、先ほどまでとは比べ物にならないほどの攻撃を繰り出してくる。しかしこちらには剣がある。ぶつかり合うだびに皮膚は裂け、血が滲んでいる。

 そんなことはお構いなしとでも言うかのように、その連打が止まることがない。


「このぉ!いい加減うっとおしいんだよ!!」


 両手に力を込めて相手の攻撃を大きく弾く。

 上体が反れたオークキングの鎧を狙って振り上げた剣をそのまま斬り下ろす。ガキンと弾かれてしまったが、その鎧に大きな傷を付けることに成功した。


「まだまだあ!!」


 逆にこちらが攻勢に出る。予想外の一撃だったのか、オークキングは両腕の肘を折り曲げ、体の前を守るように体を縮める。

 ボクはそれを好機だと思い、その腕を何度も切りつける。血があふれ、骨が見えるほどえぐれている。

 勝てる!そう思った一瞬、気づいた天井を見上げていた。



 ……何が起きた?ズキズキと痛む全身を奮い立たせて立ち上がる。オークキングが目の前にきている。

 吹き飛ばされたのか。相手は防御を固めていただけじゃない、反撃の隙を狙っていたのだ。まんまと相手の策にハマり、形勢は逆転した。


 剣は折れ、右腕は痛くてあげることも出来ない。

 ここまでか……でも諦めたくない!まだ死ねない!!


 ボクは最後の力を振り絞り狂戦士化する。

 痛みを感じずらくなり、力も籠っている。それでもオークキングのそれには及ばない、打ち合いともならない戦いを数発続けて、その場に崩れ落ちる。


「まだ、まだああ…」


 倒れ伏して動けないボクをオークキングが掴み上げ空中にぶら下げる。そして服を切り裂いて上半身が露わになる。

 そういえばオークって繁殖用にメスを襲うってクリコが言ってたな。これから嬲られるのだろう、諦めてしまったその時、後方から大きな爆発音が聞こえてきた。


 崩れた岩場からボクを呼ぶ声が聞こえる。


「エミリ!!!」


 遅いよ、アレン。

 

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