第14話 因果は巡る
そんな怒涛の朝を終えてからは……なに、他と変わらない普通の毎日だ。
ただ心なしか、周りの生徒の目が少し柔らかくなった気がする。それだけ。
おそらく一条 冷華が中休みオレに謎のアタックを続けていたからだろう。
毎中休みオレの机の前に来て、やれ私のギアにならない?とか、やれ私と一緒に戦闘訓練をしてくれない?とか、やれ異能発動のコツを教えてとか言ってくるのだ。
流石に周りの人も奇異の目では見てこなくなった。むしろ別の目で見られるようになった。
嫉妬の目である。
「あー、疲れたー」
放課後、そのまま家に帰ろうとすると、
「おい柊、面貸せよ」
そう言ってきたのはモテ男Aである。
なるほど、世の中とは中々上手くいかない。鮮やかに一件落着とはいかないようだ。
茜、君がいてくれないと精神が病みそうだ!オレを癒してくれ!とか言えば彼女は癒してくれるのだろうか。
うん、多分癒してくれる。ちゃんとした理由があればの話だが。
などと考えながら、別にどうでもよかったのでモテ男Aこと風間 照について行った。
そしてしばらく歩き、歩き……さらに歩き、到着したのである。
いかにも怪しそうな廃工場に――。
はぁ、随分かび臭い場所に連れてきたなぁ……。
今時監視カメラのない廃工場などに立ち寄る人は言ない。
危険すぎるからだ。
犯罪をほぼ完璧に取り締まっている世界で、もちろんこういう取り締まれない場所は悪人どもにとって絶好の環境。
「オレをこんな場所に連れてきて、どうするつもりなんだ?」
立ち止まり聞くと、
「そんなん決まってんだろ。お前を、潰すのさ――」
モテ男Aが不敵な笑みを浮かべると同時、オレの周囲は複数の不良生徒達に囲まれる。
ぞろぞろと建物の死角から姿を現す男性生徒達。しかも全て異能者。
まあ実は知っていたし、何なら数まで把握し終わっていた。数は24人。
一番強いヤツで精々レベル「5」ってとこか。
「雑魚がよ。無能は無能らしくしてれば良かったんだ。影人を討伐できたのだって、俺達に勝てたのだってきっと何か仕掛けがあるはずだぜ?」
もしそんな魔法のような手品があるのなら是非とも知りたいものだ。
「悪いが、そんなものはない。……まだ気づかないのか? 単純に、お前が弱いだけだ。弱者とは自分が弱者であることに気付かない愚か者のことである……オレの師の言葉だ」
「なんだとぉぉ!? てめえ殺す!!」
殺す?
そう言って一方踏み出し殴りかかってくるが、オレは一旦大きく後方回避。
後ろから繰り出される他の男子の蹴りや拳も同時にかわしていく。全てノールックで。
「大事なことだから言っておく。お前、ここで異能を発動すればただの犯罪者だぞ。そしてオレを殺せば昇格して殺人犯だ」
「そんなこたあ知ってんだよ!」
ふーん、じゃあただの馬鹿か。それとも何か考えがあんのか?
たとえば警察と繋がりがある、とか?
「……そこでだな、俺はお前を殺すことにしたぜ無能野郎。颯とギアになるはずの冷華をたぶらかして、しまいには俺達有能を馬鹿にした。お前みたいなゴミはこの世に居ちゃいけねえんだよ」
一体全体何がそこでだな、なのか意味不明で仕方ない。オレを殺すに至る思考回路も至極謎である。
しかしまあどうやら遂に一線を越える気らしい。
アホかと思うが、嘘で言っているようには思えない。
でもこっちだって流石に大人しく殺される訳にはいかないんでね。
オレには白愛がいる。茜にも別れを告げていない。
きっと茜は気まぐれで正直オレなんかどうでもいいのかもしれない。けど、彼女ならオレを変えてくる気がする。
だから――生きる。
今、オレにある選択肢は三つ。
たとえば異能を使用せずに全員を無力化する方法。これは結構簡単に実現できる。
しかしこれだとこのイジメは、というかもはや犯罪行為は明日以降も永遠に続くと容易に想像がつく。
もう一つの選択肢……公的機関の力を借りる。
これも一見良さそうに思えるが全く駄目だな。
警察などがイジメを止めてくれる存在とは成り得ないからだ。
そして三つ目。
「まあいい」
目の前のコイツらを殺すのは“アリ”だ。
出来れば最も避けたかったことだが、こうなってしまえば仕方ない。オレの“蒼穿”や“蒼星”はマナの痕跡も残さず、コイツらを跡形もなく消すことができるだろう。証拠がなければ警察、異能警務部隊もオレを捕まえることは出来ないはずだ。
「分かった、もう面倒だ。お前ら一気に来いよ」
オレは周囲の不良生徒達にも、そう煽った。
虚数―――「蒼」
密かに虚数演算の異能を発動させる。
蒼をその手に収束させ始め――
と、その途中。
ドガッ!と、謎の鈍い音とともに一帯が大きく揺れる。更に増援かよと思ったが、次に聞こえた気怠そうな声にその考えを改める。
「はーい、おじゃまするよー」
聞き慣れた透き通る声。オレも不良生徒も等しくその声が聞こえる方へと顔を向ける。
そこには黒髪ストレートが誰より似合うオレのギアと茶髪をサイドテールにした真面目そうな雰囲気の女性が廃工場とはいえその頑丈な壁面をぶち破って中に入ってきた。
しかし、いつも通り美しいオレのギアよりもその肩や胸のワッペンの方にオレの意識は向いた。
星のエンブレム……極秘組織…………成程そういうことだったのか。
そして、オレの納得、驚愕をおいて無謀にも不良が彼女らに近寄る。
「おいおい、お嬢ちゃんたち何俺らの洗礼邪魔してんだよ!」
「ただの女二人でこんなとこくるとか馬鹿か。そんなに犯されてえのか」
「そうだぜ、ちょっと奥の部屋まで行っていったん話しようか?」
三人の男子生徒の瞳は劣情の色に染まっており、会話が目的でないのは明らかだった。対して茜の隣に居る女性は呆れかえった表情をしていた。
茜に至っては……
「は? 私に触らないで」
目の前の生徒達をまるでゴミでも見るかのような目で見ている。
「触れていいのは蒼斗だけ」
不良生徒の未来を予想したオレは心の中で静かに合掌した。
「はぁ……あなた達、これが目には入らないの?」
と茶髪のサイドテール女性が指を胸にさすことでようやくそのエンブレムの存在に気づく不良生徒。
その表情は驚愕に染められ目を大きく見開く。
「そ、それは異能士協会直属特殊親衛部隊「
「いや、こんな少女と女が? んなわけねえだろ!」
全く、能天気な奴らだな。
彼女達がこんな場所に来るという異常性に気づかんのか?
彼女達は日々異能士協会を護衛する任務を割り振られ、近づく脅威は殲滅。
一方で影人も討伐する。その討伐組織が「星影」。茜のいる組織だ。そしてそこは機密チームなのだろう。一般には秘匿される。
成程、異能士協会「
そして、そんな人達がわざわざこの場に現れたということは、ここにそれほどの何かがあるということに他ならない。
紙を取り出し、読み上げるサイドテール女性。
「風間
ここでモテ男Aの顔が壮大に歪む。
オレもなぜ茜たちがモテ男Aのことを調べたのかに驚いた。
「そしてそこにいる男子とそこにいる男子、自分たちの気に入った女性をレベル保持者だからなんだと言って部屋に連れ込み強姦を繰り返す。その数は十を超える。……はい、こんな感じでいい……[K]?」
その女性はなんだか茜の機嫌を気にしているようだった。
しかもケー? 組織のオーディナルコードネームか?
「んー、いいんじゃない?
と茜が答える中、
「そ、そんな事する訳がねえだろ!」
「言いがかりだぜ!」
とたまらず反論の不良生徒。
それもそうだろうここで黙ってしまったら自分たちがやったことを認めてしまうことと同義なのだから。しかし、その蒼白になっている顔がなによりも自白だった。
「言いがかり? こちらには十分な証拠が揃っているわよ」
と資料の一部をその風間を含む三人の足元に投げ捨てる。
それを見て、どんどん顔が青くなっていく三人。見てるこっちが思わず心配してしまうほどだ。
「なんでこんなクズがのうのうと生きてるのか分からないけどさ。私たちはあんた等みたいなゴミの為に戦ってるわけじゃないってこと知っておいてよ」
茜は長い髪をかき上げながら、相変わらずゴミを見る目で言った。
さらに、
「あ、そういえばさっき蒼斗の事殺すとか言ってたよね? それ誰が言ったの? 殺人未遂の罪で私が潰してあげるよ」
おおぅ……。
モテ男Aの顔が屈辱からか赤く染まり、
「やってみろ、この糞アマが! 殺してからぶち犯してやるよ!」
と沸点に達し、茜目掛けて走り出す勇者となった。
やめろ! その先は地獄だぞ!
オレの心中は届かず、勇者風間は茜の目の前まで来ると左手を前に出し吠える。
「死ねぇぇ!」
その手からは巨大な炎が出現。
その爆炎は真っすぐ茜めがけて飛翔する。くだらないと横目にそれを見る茜に衝突する刹那、小さくピカッと“何か”が赤く発光する。
「……といっても、そもそも私に触れられないんだけどね」
言うと同時、存在していたはずの炎の塊は消え去り、
「があぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
敗北者風間の絶叫が響き渡る――。
「まー、私もこんなことしちゃったし、さっきの蒼斗への侮辱は無かったことにしてあげる」
「がああああああ! いてえぇぇぇぇ! いてぇぇぇよぉぉぉぉ!!」
モテ男Aの左腕はあらぬ方に曲がっていた。痛みに慣れていないのか、泣き叫んでいる。鼻水ぼうぼうで。
茜がやったことは案外単純だ。視認するのも難しいほどの速度で赤い電気を発生させると迫りくる炎を霧消させ、その電撃の反発力(?)を使って風間の左腕の骨を砕いた。
その間僅か一秒にも満たない。まあ速過ぎたためか骨を砕くだけでは終わらず、違う部分が折れて腕が変な方向を向いてしまったようだが……。
「うるさいな……。私言ったよね? さっきの蒼斗への侮辱は無かったことにするって。まだ、今までの分が残ってるんだけど?」
茜は綾乃と呼ばれた女性に軽く目配せした。
「やれば? 別にどうでもいいわ」
「ひぃ!!」
モテ男Aは悲鳴を上げて後ずさる。他の不良生徒もその圧倒的な存在を前に恐怖に駆られ歯を鳴らす。
「うーんと、ちなみにあなたのお父さんはさっき逮捕された。まー、それも当然だよね。息子の罪を隠蔽してた訳だから」
やめてちょうだい! 彼らのライフはもうゼロよ!
モテ男Aのその顔は青を超越して既に白色になっている。もうライフがマイナスになってるかもしれないな。
そんでもってレベルもマイナスになって「虚数」使えるといいな。きっと強くなれるぞ。
なんちゃって。「虚数術式」は扱えるようになるのに基本20年かかる。君らのような基本的なマナの練り上げも出来ない人が扱えば脳が壊れるだろう。
ビリっと鳴りながら赤々と光り……同時に悲鳴が広がる。それが三回。
まあ既に両腕両脚壊れてるようだが……。
制裁は……終わった……。
綾乃と呼ばれた女性は終わり次第歩き出し何故か俺の方に近づく。
「柊 蒼斗、貴方をスカウトしにきたのよ。少し話を聞いて貰えないかしら?」
「え?」
オレの泳ぐ目は最後、奥の茜を見た。すると彼女はなんと可愛らしい天使のような笑みでこちらを見てくる。
モテ男Aをボコった直後とは思えない悪魔の笑顔である(矛盾)。
すると茜は口パクで何か言い始めた。
ん……? あ・お・と?
何この人、可愛すぎんだろっ!
「えっと、スカウト……とは?」
「ええ。うちに所属する“最強の異能士”が、どうしても貴方を組織に入れたいと言って駄々をこねたのよ」
茜の事だなと思っていると本人が、
「何その失礼な言い方ー、別に駄々なんかこねてないよ。蒼斗を組織に入れないなら私はこの組織から抜けるって言っただけじゃん」
いや、それは脅しです茜さん。立派な脅迫です。
君ほどの人間に出ていかれたら「星影」は多分利益の三分の一以上は消失する……。恐るべし特級。
「分かりました。前向きに検討します……」
境界を操りし蒼き者 ~能力レベル「-1」で無能と言われるオレ、実は最強~ 蒼アオイ @aoiiiiii
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます