第13話 圧倒
「それではこれより異能決闘を始める。審判は私、
そうして演習室中央で対面したオレとモテ男AB。
当然ながらモテ男Aはカンカンといったご様子。今すぐにでもオレを殺しにかかってきそうな勢い。
「てめえ……絶対ぶっ潰してやる!! 絶対だ!!」
そう言って掌に拳をぶつけ、パンと鳴らす。
おー怖い怖い(笑)。
「異能による殺人は異能刑法第199条に違反する。くれぐれも捻挫までに留める事。なお、それ以上の殺傷は言わずもがな犯罪だ」
審判もとい茶髪ポニテ、もとい功刀先輩はわざわざそう説明してくれるが、きっと意味はないだろう。
なぜならオレは―――。
「それでは構え―――」
モテ男Aは体勢を低くし両手にマナを溜めこむ込む。それは異能『劫火』の性質を備えたマナ。
ジュワと熱気が広がる。
モテ男Bは空中に存在する水蒸気を相転移で液化するところから始まる。要は水の発生からスタートする。
両方異能の展開を迅速にしようと躍起になっている。
この構え方で実践を想定しているのであれば、残念だが二人とも異能士にはなれない。
なぜなら攻撃系統がバレバレ。
お願いです、防御方法を考えておいてください、と言っているようなものだ。
まあこっちは別に底辺相手に本気を出す必要もないが。
「始め―――!!」
瞬間、炎の展開と水の展開を開始。
遅い遅い……君ら異能発動から展開するまでに何秒かけるつもりだ?
折角一発くらい当たってやろうと思っていたのに……もういいや。
虚数―――「蒼」
オレは、やっと異能を前へ放出した彼ら……すなわちモテ男ABの背後側に瞬間移動。
そして二人のうなじにマナ波動による局所的衝撃を与え、意識を刈り取る。
声さえ漏らす暇なく、その場には二人のモテ男がばたりと転がった。
「は――――!?」
一条を含め懲罰委員の女子二人が驚くのも無理はない。
「嘘でしょ……っ」
「今のは――!」
虚数術式は発動の際、虚数という虚構の作業を実数という現実世界で強制するため、物理次元に形跡は一切残らない。
早い話、妄想は実物としては残らないということ。
発動兆候も隠そうと思えば隠せるし、第一発動自体に気づけない。
「まあこんなもんか」
手首を掴みクルクル回した。
「しょ、勝者……柊 蒼斗!」
オレは小さくため息を吐く。
こんなのは決闘とは言わない。勝利とも言わない。
仮にこれが本当の戦場だった場合、コイツらは一秒もせずオレに殺されていた。
戦いとは、こんな生易しいものではない。
これじゃまるで温くなり、炭酸が抜けたコーラだ。
「は、速すぎて……何も……」
一条はそう漏らす。彼女らしくない口調で。
通常「青」は虚数術式に流し込むことで「蒼」になる訳だが。
それは三次元に「マイナスの空間」を落とし、ブラックホールのように吸い込む能力。その応用で瞬間的な移動を実現している。
視認するためには通常の動体視力では叶わない。
「これは……」
「あー、安心してください。二人とも脊髄にあるマナ回路へ衝撃を与えて気絶させているだけです」
「そうか、それならいいが……。柊……君、相当強いだろ? 二級……一級……いや」
信じられないといった口調で功刀 舞梨は考え込むが、いったん首を振って自制。オレの方に近づいてくる。
近づいてくる。
近づいてくる。
近づいてくる。
んー、というか近くないですか??
そろそろ止まってください。
「柊、私……強い男は好きだぞ」
などと近距離から訳の分らんことを言ってくる功刀先輩。
「え、え、ああ……」
この人美人だから、こういうことを言われると普通に勘違いしてしまうではないか。
「能力レベル『-1』……そしてこの圧倒的速度……単純に疑問はありますが……?」
今まで黙っていた灰色髪先輩がそう言ったが、
「いいや、追及はしない。柊は自分の能力を隠したがっているようだし。あの影人を葬ったことも学校側には秘密にしとく。柊、それでいいかい?」
優しい面持ちでこっちを見てくる。
「お気遣い感謝します。そういう配慮は本当に助かります」
「いいんだよ♡」
首を傾げ、微笑みながらウインクしてくる。
功刀先輩のこの仕草は男を勘違いさせる動作ナンバーワンである(オレ調べ)。おそらく幾千もの男子がこれに惑わされたのであろう。
そもそもさっきまでの男勝りな雰囲気はどこへやら。
「あ、そう言えば……」
一つだけ疑問点、というか気になる部分がある。
「ん、なんだい?」
「その先輩が見たっていう監視カメラ映像。提供者はおそらく黒髪ロングの女子だったのでは?」
「え、ああそうだが……。見たことない星のエンブレムを付けた女子……? というか傾国の美女だったな……。学園の制服じゃなくて隊服を着てたから組織の人だと思うんだが。君、あの赤目の女の知り合いか?」
赤目の女……間違いない。茜だな。
そもそも影人由来の「赤い瞳」は差別用語。現在では「紅い瞳」と表記しなくてはいけない決まり。
しかし口頭ではその区別をつけれないため「赤目」という単語を使用する場合があるのだ。
このポニテ先輩、鋭いな。おそらく霧神家の生き残りだと気付いている。
「ええ、まあ」
たちまち先輩の表情がにやけ出す。
「恋人だったり?」
先輩は上機嫌にニヤニヤしながら肘でつついてくる。
「いいえ、違います。オレの――ギアですよ」
◇
そのまま寝転がるモテ男ABを置いて、教室に戻ろうと廊下へ出ると、
「柊 蒼斗……!!」
後ろから声をかけられた。声の主は一条 冷華だ。
それでもオレは振り返らなかった。別に顔を合わせる必要なんてないと思ったからだ。
「無能のオレに何か用か?」
「えと……無能、とか言ってごめんなさい」
声音が小さくなった感じから、おそらく頭を下げている。
「まあなんだ。君は直接イジメに加担してた訳じゃない。別にいい」
「あなた、本当は物凄く強いんでしょう? 今日、それが確信に変わったわ」
彼女は以前から何かとオレへ関わろうとしてきていた。わざわざ人目を気にして、廊下などで声をかけてくることが多かった。
つまりオレの何かが異常だとは気づいていたようだ。
さすがに真の無能ども……じゃなくてモテ男ABとは違い、その辺はしっかりしている。
「あと……お礼が言いたくて。その……あの時、どうやって治療したのかは分からない。というかそんなことどうでもいいわね……。とにかく私……あのままだと死んでたと思うの。だから……助けてくれてありがとう」
オレはここで彼女の表情を見るべく振り向き、
「別に。オレは特別に君を助けた訳じゃない。単に救える人間があの場に君しかいなかった」
他の人間は虚数術式で再生不可能なくらいにぐちゃぐちゃになっていたからな。
実はそれだけの理由なのだ。
「それでも私は、あなたに助けれらたのよ。あなたがいなかったら私……」
「だから言ったろ、気にするなって。逆の立場で考えてみろ。自分が救える手段を持っていて、目の前に救える人がいたらその手段を使わないのか?」
ただそれだけだ。倒れていたのがモテ男Aでもモテ男Bでも、オレは助けたさ。
またいじめが始まると知っていても。
死者は、絶対に戻ってこないのだから。
「それは、使う、けれど……」
「だろ? そういうことだ」
よーし、一件落着! そう気を構え、そろそろ立ち去ろうと……足早に逃げようとすると、
「待って!! それと!! その……蒼斗のことが……その……少し……そう! ほんの少しだけ! ほ、ほんの少しよ! す……す……す……」
などと、顔を赤らめながらしばらく「す」を連呼していたが結局何を言いたいのかオレには分からなかった。
――ので、両手の人差し指同士を合わせる学園一の才女をその場に置いて退散した。
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