告白に困ったら両想い
黒羽カラス
第1話 愛の告白
放課後を迎えると予想した通り、前の方の席にいた
わたしは心の中であからさまな溜息を
その時、奏は小声で言った。
「いじわるぅ」
「何もしてないじゃない」
怒りの目を横手に向けると、奏は甘ったるい笑顔を浮かべた。
「こっちを向いたね」
「策士か。で、授業中に散々チラ見したほどの相談は何よ?」
「ここには男子がいるから……」
恋する乙女のように頬をほんのりと染める。
奏は不思議そうにわたしの顔を覗き込む。
「なっちゃん、笑ってる?」
「そんなこと、ない」
口元を引き締めたわたしは席を立った。また男子が、おー、と低い声を上げた。
「いちいち、うるせーんだよ。おまえら、全員ぶん殴るぞ!」
「巨人が怒った」
「マジ、
「ヤベーって」
小躍りするような格好で男子達は教室を陽気に出ていった。本当にばかばかしい。相手をして損した気分になる。
「失礼だよね。なっちゃんはカッコイイだけなのに」
「その言い方もうれしくない。
ショートの前髪を乱暴に
「はい、どうぞ」
奏は自分の左肩をクイッと上げる。身長の関係で手は握りづらい。その代わりとして肩を差し出しているようだった。
「じゃあ、行こうか」
わたしは奏の頭を掴んだ。強引に歩き出すと、ちがーう、と胸を揺さぶって足をバタバタさせる。そんな姿も愛らしく、つい目を細めてしまった。
九月中旬を秋とは認めない。降り注ぐ陽光で肌がじんわりと汗ばむ。
そこで自動販売機に立ち寄った。わたしは微糖のコーヒーで、奏はミックスジュース。一級河川を望める階段に二人で座って喉を
「もういい加減、相談内容を教えてくれてもいいんじゃない」
「……それなんだけど、なっちゃんは好きな人っている?」
上目づかいで訊かれた。即答はできず、少し考えてみる。
「NBAの選手ではダメかな」
「アイドルもダメ。もっと身近な人で」
「同じクラスのバカ共は対象にならないし、どうだろう。ちなみに奏はどうなのよ。身近に好きな人っている?」
何げない言葉に奏は顔を赤くした。手の中の缶を意味もなく回し始める。
「……いるよ。そこで相談なんだけど」
「いるんだ。もしかして告白に迷っているとか」
「そう、どうしたらいいかな」
手の中で回す缶をじっと見つめる。長い睫毛に目が引き寄せられた。恥じらう姿まで愛らしい。
「奏の気持ち次第だと思うんだけど」
手の中で回していた缶がぴたりと止まる。奏は中身を一気に飲み干した。
「好きだと思う。相手の気持ちは全然わからないんだけど」
「フラれることに怖がっていたりする?」
「ダメなら仕方ないんだけどね。気持ち悪いって思われるのは、想像するだけで辛くなって……」
奏は寂しそうな顔で笑った。わたしは小さな肩を掴み、こちらへ強引に向かせる。
「奏が気持ち悪いわけないじゃん! 長い髪はツヤツヤで天使の輪っかができるし、ぱっちりした目はきれいな二重でマジ天使とか本気で思うよ。だから自信を持てばいけるって」
「告白して、相手が返事に困ったら?」
「それは両想いってことだよ。考えてみなよ。どうでもいい相手から告白されて、迷うなんてこと、絶対にないから。わたしがクラスの男子に、仮にだよ。告白されたら顔面にダンクシュートを叩き込むよ、マジで」
奏の目を見て熱弁を振るった。心の中でクラスの男子は鼻血を出して倒れ伏す。顔面ダンクで墓標のない墓場と化した。
「なっちゃんのおかげで、元気が出たかも!」
「その意気だよ!」
「今日、告白するね」
「え、今日なの? まあ、わたしが背中を押したんだけど、もう少し考えてからでもいいんじゃないかな」
小鼻を膨らませた奏にわたしは
「早く決めないと気持ちが揺らぐかもしれないし」
「言われれば、うん、その通りだよ。わたしも応援するから」
「じゃあ、告白するね」
「うん?」
わたしは笑顔のまま小首を傾げた。
「カッコイイなっちゃんのことが前から好きでした。わたしと付き合ってください!」
「ええっ、告白の相手ってわたし!?」
「今、返事が欲しいな。もしかして困っちゃった?」
「そ、それは当然っていうか、同性だし。友達から告白されるなんて、考えたこともなかったよ」
目を合わせられない。小さな身体にわたしは
逆に奏は勢い付いた。ふくよかな胸をわたしに押し当てて言った。
「なっちゃん、困ったら両想いってことなんだよね!」
「それは……」
自分が口にした言葉に追い詰められる。奏は頬をプルプルと震わせて見上げてきた。潤む目を決して
健気な姿にわたしは無意識に奏の頭を撫でていた。予想以上の震えが掌に伝わり、甘酸っぱい感情が胸の中に溢れた。
「そ、その、これからもよろしく」
「なっちゃん、大好き!」
小柄な奏に抱き締められた。胸の圧が凄い。顔が熱い理由もわからず、わたしも好き、と
告白に困ったら両想い 黒羽カラス @fullswing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます