248. 苦悩するクラスメイト 3

「……今から格闘技を習うっていうのもあからさま過ぎるか? それより健康の為って事で筋トレを始めた方が良いか」


 奈津との会話で悶々としてしまった俺は、勉強だけでなく別の努力もすべきなのではないかと考えるようになった。なので今現在、インターネットで色々と検索しながら自分磨きの方向性を模索している。

 ただ、その方向性の候補の中でも一番最有力と思われる物があるのだが、俺はあえてそれを候補から外していた。……その候補というのがプログレス・オンライン。


 奈津と話していれば分かる。奈津にとってプログレス・オンラインはただのゲームではなく、とても大切な世界なのだ。

 俺がその世界に飛び込み、ゲームの中でも一緒の時間を過ごせるようになれば、奈津との仲を進展させる可能性は大いにあると思っている。……が、俺はその選択肢を選ぶ事が出来なかった。と言うより、選ぶ勇気が無かった。

 それは、奈津がまだ学校を休学している時の事、奈津の家へと出向き直接謝る事が出来なかった俺はプログレス・オンラインの世界で謝罪の機会を作ろうと考え行動に移した。そしてその結果は……。


 『あなたに関係ないでしょ?』


 きっと俺はあの時、何か奈津の地雷を踏み抜いてしまったのだ。

 あの時の冷たく鋭い目つきと刺々しい雰囲気は今でも俺のトラウマだ。そのせいで、プログレス・オンラインの世界で奈津との距離を縮めようとは考えられなかった。


「……よし、まずは体力を付けよう。それで高校に進学したらバイトを始めて、トレーニング器具を買うかジムに通って体づくりだ!」


 地道な努力には自信がある俺は、それから毎朝ジョギングを始めた。

 ちなみに、そんな突然の行動を訝しんだ親には、『高校に進学したら何か運動部に入ろうと思ってるから、今のうちに体力を付けようと思って』と言い訳をしておいた。

 

 そんなこんなで始まった俺の体力作りと、学校の放課後に行う勉強会をこなしながら日々は過ぎていき、無事に俺と奈津は高校への入学試験に合格した。

 ……そして訪れた卒業式。


 ◆


「今日で卒業なんだね。復学する時は結構気合と覚悟を決めてきたんだけど、終わってみると何だか拍子抜けするぐらいあっけなかった気がするよ」

「まぁ、そんなもんだよな。行動を起こす前は凄く覚悟が要るけど、いざ行動に移してみると大したことなかったり……。そうだよな。そんなもんなんだよ」


 そこまで言った俺は行動に移す事なんて意外と簡単な事なんだと自分に言い聞かせ、大きな一歩を踏み出す事にした。


「なぁ、奈津」

「ん? どうしたの?」

「その、自分で言うのなんだけど、俺って結構成績良い方だろ? ……けど、俺はもともと勉強ができる方じゃなくて……じゃあ、なんでこんなに成績が上がったかっていうと……。奈津が復学出来た時、その時は奈津が困らない様に俺が力になりたいって思ったからなんだ」

「え、そうだったの!」


 奈津は俺の発言に驚いた顔をした。だが、ここで話が終わってしまえば只恩着せがましいだけの男だ。だから伝えたい事を伝える前段階としてもう一つの事を暴露する。


「それと前、俺の家に近いからあの高校に決めてたって言ったんだけど……あれ嘘なんだ。本当は奈津と同じ高校に行きたいって思ってて、だから奈津の志望校を聞いたその時に俺もそこに行こうって決めたんだ!」


 俺の告白を奈津は真剣な顔をして聞いてくれていた。……その瞳には強い力が籠っていた。


「そうだったんだ……」

「あぁ……それで……俺、奈津の事が――『でも大丈夫だよ!』――って、あれ?」


 奈津は燃えていた。そして今までに見たことが無いほどの強い気を放ち、真っすぐに俺の目を見つめる。


「私も別れる辛さはよく分かるの……本当に辛くて、別れたくないって気持ちが強ければ強いほど気持ちがどん底に落ちて行って。……でもね、もし私たちが同じ環境にいなかったとしても、それは一生の別れじゃないんだよ!」

「お、おう」

「今回は一緒の高校に通える事になったけど、もしそうじゃなかったとしても沢渡君が会いたいと思ってくれれば会えるし、私が沢渡君に会いたいと思えば会える。だって、私達は一生の別れをする訳じゃないから」

「そ、そうだな」


 前回は奈津の地雷を踏み抜いてトラウマを作ったが、今回は奈津の何かのスイッチを押してしまったらしい。

 それから奈津は俺に「もし距離が離れたとしても、ずっと友達でいようね!」と力強く宣言してくれた。


 ――えっと……これは遠回しに振られたのか? それとも気付いてもらえていないだけなのか?


 よく分からない状況になってしまったが、奈津の熱気に圧され告白どころの雰囲気ではなくなってしまった。

 そして、『これは振られた訳じゃない! そもそも告白すらまともに出来ていないんだからノーカンだ!』と自分に言い訳をして、高校に入学してからまたチャンスを作るんだと意気込んだ。


 だが、その時の俺はまだ知らなかった。

 高校入学後、奈津の芸能活動はプログレス・オンラインの枠を超えてマルチに活動を開始し、告白のチャンスを作る事が劇的に難しくなってしまう事を……。



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 これにて『苦悩するクラスメイト』は完結です。

 これからも不定期に空白の2年間のエピソードを公開していきますので、今後とも本作をよろしくお願い致します( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )


 それともし、空白の2年間で詳しく知りたい所や読んでみたい話などがありましたら、是非コメント欄に書いて頂ければ幸いです♪

 必ずエピソード化するとはお約束出来ませんが、書けそうな内容であれば是非書かせて頂きますので是非是非ご遠慮なく٩(๑>∀<๑)۶


現在確定しているエピソード:

・事務所加入と初仕事

・レキとの再会とその後の話

・バラエティ番組への準レギュラー出演

・ルビィさんのファッションショーに出演

・リアルのギンジさんの道場へ短期入門

・ナツのペットを預かる事になったロコのリアルとゲームの話

・シュン君視点の話(内容はナイショです!)

・感応能力訓練

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【本編完結】テイマーの生き方、歩み方 ~少女はペットとの楽しい冒険のために強くなる道を選んだ~ 七瀬 莉々子 @nanase_ririko

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