第7-4節(第7幕:最終話):勇者の証!

 

「さて、と。試練を乗り越えたアレスには『勇者の証』を授けてやるか~☆」


 気持ちを切り替えるように、タックさんはスッキリとした顔をして言った。そして想定外だったその言葉の内容に僕は目を丸くする。


「えっ? いいんですかっ!? だ、だって鎧の騎士を倒したのはミューリエで……」


「それより前にオイラの魔法力を打ち負かしていたじゃないか。技なのか魔法なのか、それとも別の何かの力なのかは分からないが、鎧の騎士の制御が不能になった時点でオイラの負けだ。だからアレスのことを勇者だと認める!」


 タックさんは僕の肩を力強く叩いた。その雰囲気から冗談で言っているわけではなさそう。


 それを認識した瞬間、僕の胸の奥から嬉しさと感動がこみ上げてきて、思わず瞳に涙が浮かぶ。頑張ってきて良かったとしみじみと感じる。


 努力が認められるということが、こんなにも嬉しいなんて……。


「……あはっ、やったぁ♪ 僕、とうとう……勇者として……」


「じゃ、次の試練の洞窟へ行こっか! オイラが案内するからさ~!」


 タックさんはそう言って出口の方を指差し、歩いていこうとする。依然として態度も表情もマジメそのもので、ふざけている様子はない。




 …………。


 ……え? どういうこと? わけが分からず僕はキョトンとしてしまう。


「ちょっ、タックさん!? あのっ、勇者の証ってここにはないんですかっ?」


「違う違う。勇者の証っていうのは、オイラ自身のことだよぉ~☆」


「えぇっ?」


「だから第1の試練における勇者の証はオイラ自身。勇者を導き、サポートをするのがオイラの役目だ。ちなみにオイラの特技は召喚魔法。それと素速い身のこなしかな。もちろん、エルフ族特有の能力も持ってるけどさ~」


「…………」


 まさか勇者の証がタックさん自身だったとは、あまりにも予想外の展開すぎて僕は唖然としてしまった。勇者の証っていうからアミュレットや宝玉、あるいは勲章みたいなものをイメージしてたんだけど……。


 でもこれはこれで旅は賑やかになりそうで、僕としては歓迎だ。タックさんの召喚魔法は強大で、冒険の時には頼りになりそうだし。


 それにしても、そうなると残り4つの勇者の証はどんなものなんだろう? 同じように審判者自身なのかな? 不安と期待が今までの何倍にも大きく膨れあがって、心臓のドキドキが止まらない。


「これからは一緒に旅する仲間になるわけだしぃ、オイラのことは『タック』でいいよ。さん付けはいらねぇ♪ よろしくな、アレス!」


「こちらこそよろしく、タック!」


「……ついでに、ミューリエも程々によろしくな。オイラの足手まといにはなるなよ?」


「ついでとはなんだ、ついでとは! それに私が足手まといだと? 失礼な! 私は認めんぞ! こやつと一緒に旅をするなど!」


 ミューリエは即座に剣を抜いて構え、切っ先をタックの顔に向けた。瞳には敵意と憎悪に満ちた光が宿り、ちょっとしたきっかけでその剣を本当に突き刺しそうな雰囲気すらある。


 どうしてこのふたりは仲良くしてくれないんだろう。ほんのちょっぴりでいいから、歩み寄ってくれたらいいのに。どちらも僕の大切な仲間なんだから……。


「ミューリエ、そんなこと言わないでよ……。仲間は多い方が良いんだし……。僕はふたりが争う姿を見たくないよ……」


「アレス……。そ、そんな悲しげな瞳で私を見るな……」


「ミューリエ、タックが僕たちと一緒に旅をすることを認めてあげてよ。お願いだよ」


 僕はミューリエの瞳を見つめながら懇願した。


 すると彼女は小さく息を呑み、狼狽うろたえながら視線を僕から逸らしてしまう。それでも僕はじっと見つめ続ける。


 やがてミューリエは根負けしたように大きく息をき、頭痛にでも耐えるかのように片手で額の辺りを押さえた。そして少し投げやりな感じで言い放つ。


「あぁ、もうっ! 分かった! 認めてやる! ただし、私はタックと馴れ合うつもりはないからな!」


「ミューリエ、ありがとうっ!」


 こうして僕の旅にタックが加わった。ミューリエと同様、頼もしい仲間となってくれるに違いない。これからこのふたりには色々と苦労させられそうだけど、旅はきっと充実したものになるだろう。


 ――僕はそう確信している!



(第1片:完結/第2片へつづく……かも!?)

 

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ヘタレ勇者と勇気の欠片 みすたぁ・ゆー @mister_u

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