第7-3節:第1の試練の結末

 

「――アレスっ! この場は私に任せろぉっ!!」


 その時、明後日の方向からミューリエの雄叫びが上がった。


 声がした方向へ視線を向けるや否や、彼女は僕の横を駆け抜け、鎧の騎士に向かっていく。彼女の香水か何かのいい匂いだけが、ほのかにその場に残って霧散していく。


「はぁあああああぁーっ!」


 程なくミューリエは走りながら剣を抜くと、鎧の騎士に接近したところで左右にステップ! 相手のパンチによる攻撃を華麗にかわし、大きく真上に向かってジャンプした。


 そのまま落下する力を利用して上から下へ斬りかかるッ!


「てやぁあああああぁーっ! 一閃いっせん滅殺めっさつッ!!」


 光速のようにも感じられる瞬時の斬撃――。


 剣に反射した光が軌道を描き、その場には残像の余韻よいんが漂う。当然、技の破壊力は凄まじく、ミューリエの攻撃を食らった鎧の騎士は体が縦に真っ二つに破断して真後ろに崩れ落ちたのだった。


 フロアにはその際の衝撃音と振動が響き、ガランガランという金属音とともに程なく沈黙する。あとに残されたのは瓦礫がれきの山と立ち上る砂埃すなぼこり。もはや原形を留めていない。


 なんとミューリエは一撃で鎧の騎士を倒してしまったのだ。


「す……すごい……。これがミューリエの本気の剣技……」


「ひぇ~、おっそろしいっ♪」


 タックさんはわざとらしい身震いをしながら、ケタケタと笑っている。


「大丈夫か、アレスっ!」


 鎧の騎士を仕留めたミューリエは僕のそばまで駆け寄ってきた。そして心配そうに僕を見つめる。


 それに対して僕は戸惑うというか、思わず薄笑いが浮かんでしまう。


「そ、そりゃまぁ、僕は大丈夫だよ……。だって鎧の騎士を倒したのはミューリエだし。むしろそのセリフは僕が言うべきというか……」


「だが、さっき鎧の騎士の攻撃を食らっていただろう?」


「もちろん体は痛いけど、回復アイテムを使えば大丈夫な範囲だと思う。あ、悪いけど回復薬を飲ませてもらえる? もう動けなくてさ……」


「おぉ、それはそうだな。気付かなくて悪かった。待っていろ」


 ミューリエは自分の道具袋の中から液体の回復薬が入った小瓶を取り出し、そのフタを開けて飲ませてくれた。すると徐々に体に心地よさが広がって、力も少しずつ戻ってくる。


 そして余裕が戻った僕が自分の回復薬をタックさんに飲ませてあげる。


 今になって気付いたけど、もう少し早いタイミングで僕自身がこれを使っていたらもっと色々な対処が出来ていたのかもしれない。精神的な余裕がなくて、回復薬の存在をすっかり忘れてたよ……。


「ふぅ~、助かったぜ。今回の件ではミューリエに借りを作っちまったな~☆」


「ふんっ! 貴様なんか鎧の騎士に殺されてしまえば良かったのだ。助けたのではなく、結果的に助ける形になったというだけのこと。私は最初からアレスしか助ける気はない。貴様と馴れ合う気など毛頭もないッ!」


 不機嫌そうにフンッと鼻息をき、そっぽを向いてしまうミューリエ。ピリピリとしていて、下手なことを言えば僕までとばっちりを食いそうだ。よほどタックさんを毛嫌いしているらしい。理由は分からないけど……。


「……もしかしてミューリエはツンデレってヤツか? 本音ではオイラのこと、心配してくれてるとか?」


「ありえん! 天地がひっくり返ってもありえん!」


「あははははっ! だろーなっ♪」


 タックさんはミューリエを指差し、瞳に涙が浮かぶくらいに大笑いしている。


 そのせいでますます彼女の機嫌は悪化して、今にも斬りかかりそうな雰囲気。全身から殺気が漂ってるし……。


 まったく、タックさんにも困ったものだ。わざとミューリエを挑発するようなことを言って。それで怒った姿を見て面白がってるんだからタチが悪いよ……。


 はぁ……思わずため息が漏れる……。


「それにしてもミューリエ。どうしてそんなにタックさんのことを嫌ってるの? タックさんが何かした?」


「っ!? ……コイツとは本能的に合わんのだ。こればっかりはどうしようもない。それしか説明のしようがない。すまないな……」


「それはオイラのセリフだぜ。オイラだって本当はミューリエが近くにいるだけでムカムカするんだ。でもアレスの仲間みたいだから、愛想よく振る舞ってるってだけ。だからお前は気にする必要はないんだ。――それにこの理由はいつかきっとアレスにも分かる時が来るさ」


「そう……なんですか……?」


 なんだろう……? タックさんの言葉には何か思わせぶりな雰囲気が感じられるんだけど。


 ミューリエのタックさんに対する反応にも関係がありそうだし、ふたりの間には何か因縁のようなものがあるような気がする。


 僕が最初に試練の洞窟へ挑戦した時に初めて出会ったというんじゃなくて、もっと昔からお互いを知っているかのような感じ。本当に単なる勘だけど……。


 ま、考えたところで分からないし、僕の思い過ごしってこともあるから今は気にしないでおこう。



(つづく……)

 

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