第3話 カレリアの真意


一週間後、回帰前と変わらずカレリアが我が家に来た。


「お久しぶりね、ブロンシュ」


「はい、本当にお久しぶりです。この度は…」


「ああ、そういう挨拶は聞き飽きたからいいわ。それより婚約したんですって? どんな方なの? いろいろ話を聞きたいわ」


「…今日、いらっしゃる予定なの。その時に紹介するわね」


「楽しみだわっ」

 そう言いながら、笑顔を見せるカレリア。


 …1週間前に両親を亡くした遺族には見えない。

 実際、カレリアは両親を亡くして悲しんでなどいなかった。


 回帰前、カレリアが言っていた。


『お父様は次男だから爵位を継げなかった。だから申し訳程度の家と領地で何とか生活する毎日にうんざりしていたわ。あんたは長男の娘ってだけで、こんないい暮らしをしているのが羨ましかった。だから両親がいなくなって、ここに来られて私はとても嬉しいのよ』


 とてもではないけれど、両親を亡くした遺族である娘がいう話ではないわよね。

 それに今考えれば、あの時の言葉は悪意しか感じない。


 けれど当時の私は親を亡くしたカレリアをとにかく気遣わなければ…という気持ちが大きかったから、カレリアの本心に全く気が付かなかった。


 カレリアとは従姉と言っても、一年に数回、父方の祖父母の誕生日と新年の挨拶で一族が集まる時くらいだった。


 幼い頃初めて会った時に、お気に入りのハンカチを取られた。

 お母様に言ったけれど、『子供同士の事だから』と取り合ってもらえなかったわ。


 その後も会うたびに、何かを強請ねだられ取られた。

 子供から見て3つ年上の従姉に言われたことを拒否する事はできなかった。


 だから私は昔からカレリアの事が苦手だった。


 そういえば彼女は昔から私の物を欲しがっていたわよね。

 きっとあの頃からずっと私を妬んでいたんだわ。


 だから、私からいろいろ奪っていった。

 自分が得られなかったものを取り返すかのように…。


 当初は父方のお祖父じい様とお祖母ばあ様が預かると仰っていたけれど、カレリアが従姉の私と一緒に住みたいと言い出した事が、うちに来るきっかけとなった。


 でも本当は、田舎の辺境地に住みたくなかっただけの話だった事は、後になって本人が言っていた。


 けどその時の周りの大人たちは、親を亡くしたばかりのカレリアに気を遣っていたから、彼女の望むようにさせていたわ。


 私もカレリアに同情していたから、一緒に暮らす事も仕方がないと思っていたけれど…。


 今考えると、そんな人の気持ちを巧みに利用して、自分の都合の良い方へと誘導していたのかもしれない。


 せっかく時が戻ったのだもの。

 今度は同じ思いをしたくはないわ。


 何とかカレリアを追い出す方法はないかしら?



「こんにちは、ブロンシュ」

「いらっしゃいませ。レナード様」


 前と同じ。カレリアが我が家に来た日にレナード様と顔を合わせる。

 もともとレナード様との約束の方が先だったけど。


 今回は予定を変更しようか迷ったが、永遠に二人を会わせないわけにはいかない。

 ならば私がいる時に会わせた方がいいと思い、前と同じように二人を会わせる事にした。


「実は今日から従姉が一緒に住むことになったの」


「従姉?」


「ええ。ご両親が事故で亡くなって、親戚の我が家が引き取る事になったんです」


「そうなんだ」


 前と同じ会話。当たり前よね。


「まぁ、貴方がブロンシュの婚約者様!?」

 レナード様と会話をしていると、階段の方からカレリアの声が聞こえた。


「初めまして。私はブロンシュの従姉で、カレリアと申します。以後、お見知りおきを」

 彼女は軽やかに階段を下りてくるとカーテシーをし、零れるような笑顔をレナード様に見せた。


 回帰前のレナード様はカレリアの美しさに見惚れていたわ。

 私は隣で悲しい気持ちで立っていた事を思い出していた。

 今回の彼も…?





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