最終話:別れを乗り越えて

 2人が待ち合わせしたのは、葉月が住むアパートの近くだ。


「友野君ごめんね、お休みのところ。まずは、お仕事お疲れ様」


「ありがとう。海斗から、ライブ見に来ててばったり会ったって聞いて驚いたよ。何とか、休んでた子も復帰できたしまずはほっとしてるよ」


「そうだよね……。本当に、大変だったよね」


 労うのも束の間、葉月には言っておかないといけないことがあった。


「あのね、友野君……寒っ!」


冷たい風が襲う。柚希がすぐ抱きしめる。


「――あったかい?」


「うん、あったかい。お家すぐそこだから入ろう?」


 葉月が1人暮らししている家に2人で入り、話を始める。


「あのね、あっちにいた頃の親友が半年前に亡くなったの。病気で。名前は篝って言うの。篝が亡くなってから、心に穴が開いたけど、1人でも頑張ってるよって……帰省した時に報告したかっ――」


 何故だろう。涙が出てきた。止まらない。こんな予定じゃなかったのに――


 葉月は柚希に対して心を許せるようになったのか、泣くことを我慢できなくなっていた。


「1人でも大丈夫って強がってたけど……本当は寂しかったのかなぁ……ぐすっ」


柚希がそっと抱きしめた。


「かまちゃんは、よく頑張ってるよ。僕が保証する。だけど、篝さんの分まで強くならなきゃいけない。そんなことはない。君は1人じゃない。僕がいるから。僕の前で強がる必要なんてないから……ありのままの君でいてほしい。だから――」


「だから、どうしたの?」


「かまちゃん……いや、葉月。僕と付き合ってくださいっ……!」


 柚希から呼び捨てされたのは初めてだ。これからの人生、一緒にいたい。柚希はその覚悟で葉月に会いに来たのだ。


「うん、こんな私だけどよろしくね……ゆずくん。」


「ゆずくん。すげー照れくさいけど嬉しい。泣き止んだ君の笑顔、やっぱり可愛い。」


「うっ……たった今思いついたのー……っ!?」


柚希が仕掛けたのは不意打ちキスだ。


「ゆずくん、好きっ。うっ、慣れなくて恥ずかしいね……」


「慣れるさ。葉月、ずっと一緒だよ。大好き。」


 その後、悠太の後任として、葉月は年明けから事務所で働くことを決心したと柚希に伝えた。


 翌日。葉月は上司と後輩に事情を話し、年内で退職する意向を伝えた。


「とても残念だ。でも、君のおかげで後続が立派に育ったのは確かだ。これからの君の健闘を祈るよ」


「葉月さん、寂しいです。寂しいですけど……葉月さんが決めたことですから。応援してます!」


 有給消化期間に入る前にお別れ会が行われた。葉月に迷いはない。笑顔で高卒から勤めた職場を退職した。


☆☆☆


 有給消化期間中、クリスマスを迎えた。待ち合わせ場所で待つ葉月のもとに、柚希が走ってやってきた。


「ごめん、待った? 悠太のお別れ会で時間かかっちゃった。じゃ行こう、葉月」


「行くー! 待ってたよ、ゆずくん」


手を繋ぎ、クリスマスデートが始まる。


☆☆☆


 葉月が四つ葉プロダクションにやってきて5ヶ月余りがたった。葉月は所属アイドル達とすぐに親しくなり、充実した毎日を送っている。


 そして柚希の希望で、篝の1周忌のタイミングで葉月の故郷へ一緒に行くことになった。お墓参りの前に葉月の両親へ挨拶するため、葉月の実家へ先に向かった。


「いやー、緊張したぁ。でも、葉月のご両親は優しい感じでよかった……。近いうちに僕の両親に『僕の彼女です』って言わなきゃと思うと、更に緊張……」


「ご両親に写真見せたら『可愛い彼女さんだこと』って褒められちゃったんだから。ゆずくん、肩の力抜けば大丈夫だよ」


 手を繋いで向かった先は、篝と篝の両親のお墓がある場所だ。そこには輪がいた。


「輪さん、お久しぶりです。こちらはかねてよりお付き合いをさせていただいている、友野柚希君です」


「お話は皐月さつきちゃんから聞いてるよ。初めまして、柚希君」


「はい。初めまして、輪さん」


 挨拶が終わると、3人はお墓の目の前まで来る。


「初めまして、篝さん。貴方の親友の葉月とお付き合いしている友野柚希です。葉月は元気に頑張っています。どうかこれからも見守っていただけると嬉しいです」


「篝、心配かけちゃってごめんね。篝のお父さんお母さんにも。今はね、大丈夫。大事な人がここにいるから。安心して天国から見守っていてね。篝の分まで楽しく生きるって約束する」


 一息つくと、後ろから輪が声をかける。


「篝ちゃんも、姉ちゃん達も嬉しく思ってるに違いないよ。お2人がもし結婚したら、更に嬉しくなるよ」


「え!? まだ僕の両親にまだ挨拶してないですが……」


「そうそう、気が早いです輪さん……」


付き合ってもうすぐ半年になる。柚希の両親への挨拶を終えてから、考えなきゃいけなくなるかもしれない。


「ごめんごめん、気が早すぎたね。夕ご飯は家で食べていきんしゃい」


「「ありがとうございます!」」


 あの時柚希との再会がなかったら、ずっと強がって生きていた。柚希には感謝してもしきれないし、お礼にいつまでも一緒にいるって心に決めた葉月であった。



 [完]



※皐月→葉月の母親です


――――――


【作者より】

約1か月連載していた初作品、無事完結しました!

つたない点もある中、最後までお読みいただきありがとうございました!

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