第3話 ワン太郎と乙姫さまの竜宮ランド
**ワン太郎と乙姫さまの竜宮ランド**
今日はお休み。
バナナの食べ放題バイキングへ行った帰りの腹ごなしに、ワン太郎、猿モンキー、雉(キジ)ヒメと、桃カブトは、バナナ畑の真ん中にあるレストランからのんびり散歩することにしました。
4人が、海が一望できる、お気に入りの小高い丘まで来た時のことです。
「なんだ?あれ!」
猿モンキーが珍しく、甲高い声を上げました。
「海が赤いわ!ホホホ!」
雉(キジ)ヒメの悲痛な叫びも響きました。
桃カブトは、
「あれは!」
と指さしました。
海原は、茶褐色の帯が無数に漂い、まるでレンガのタイルのような色に染まっています。
砂浜の先の方では、人がたくさん見えています。
ワン太郎達は、すぐさま、
丘を下って行きました。
人だかりの前には、
なんと、人の腰の高さくらいまででしょうか、とても大きなわかめの固まりがありました。
「なんだ。これ!?」
猿モンキーは見たことのない、
かたまりにひどく驚きました。
村人たちからも、悲鳴のような、そして、信じられないと言った、声が次々に上げられています。
ワン太郎は、そのわかめがモゾモゾ動くのを見て、近寄るみんなを制して、少し後退りました。
「待って、動いたよ!」
雉(キジ)ヒメは、
「なんでしょう?これワ!?ホホホ!」
と目をパチクリさせています。
桃カブトは、わかめに少したけ近寄ると、
「ワン太郎、中から声は聞こえない?」
と、すぐ後ろにいた、ワン太郎に尋ねました。
ワン太郎は、耳を澄ませてみるとわかめのかたまりから、かすかな声がしているのがわかりました。
「本当だ!助けてと言っている!」
とそのわかめに近寄り、桃カブトに言いました。
「わかめを爪で切れるか、試してもらえない?」
ワン太郎は振り向き、驚いている猿モンキーに言いました。
猿モンキーは、わかめを爪で引っ掛いてみることにすると、思いのほか、わかめは柔らかかったので切ることが出来ました。
すると、わかめの切れ目から、
予想外な生き物が顔を出しました。
「わたしは亀です。助けて下さってありがとうございます。」
みんなも、村人も驚いています。
ワン太郎は、
「大丈夫ですか?」
わかめから、やっと頭と足が出ちてきたウミガメにたずねました。
「ワカメが巻き付いて、動けなくなりました。本当に助かりました。」
ウミガメは、頭を下げています。
雉(キジ)ヒメも、
「よかったワ!ホホホ!」
嬉しそうに言いました。
「なにか、お礼が出来ればいいのですが。」
ウミガメは、ワン太郎たちに言いました。
ワン太郎は、「お礼は大丈夫ですよ。」
と笑顔です。
猿モンキーも、嬉しそうです。
雉(キジ)ヒメも翼を前に出して、笑顔で拍手しました。
底意地が悪いの桃カブトは、お礼が欲しかったという顔をしています。
村人たちからも、拍手や笑顔がこぼれています。
そんな時、村の人たちの人並みから、村長が出てきました。
「村長!おいででしたか?」
とワン太郎。
「これは、ワン太郎どの。猿モンキーどの、ヒメどの、桃カブトどのも。」
村長は、この村の英雄たちとの再開に嬉しそうです。だけど、その表情も、険しいそれに変わりました。
「見てください、この海を。この急に発生した赤潮のせいで、この村の海はかわってしまいそうです。」
長老は、赤い海を見ながら続けました。
「このままで行くと、この海は、ワカメが増えすぎて、近いうちに、海藻の海になってしまいます。魚たちの棲家もなくなるでしょう。」
「これは、大変なことになりました。」
ワン太郎は、赤く染まった変わり果てた海を見て言いました。
漁師は、
「赤潮の原因は、プランクトンです。プランクトンを取り除く方法があればいいんですが。」
とつらそうな顔をして言いました。
長老は、ワン太郎たちに言いました。
「赤潮は、とり除く術がほとんどないのです。」
と、切羽詰まった様子で言いました。
突然、
「赤潮を取り除く装置ならあります。」
ウミガメが思い出して言いました。
「赤潮を取り除ける装置があるのですか?」
長老は、ウミガメに聞き返ししました。
「はい、海の中にある、竜宮城では何年かに一回、赤潮が出ていました。」
ウミガメは、頭を上げて言いました。
「赤潮除去装置というものがあります。」
「赤潮除去装置ですか?」
ワン太郎は、聞き返ししました。
「はい。そうです。装置と言っても、そんなに大きなものではないのですが、この何年かは、あまり赤潮が出ていないので、倉庫にしまったと聞きました。」
すかさず、猿モンキーは、
「海の中にいる、乙姫さまがいる竜宮城にあるんですか?」
とウミガメにたずねました。
「竜宮城ではなく、乙姫さまのストレス解消のためのテーマパーク「竜宮ランド」の倉庫に閉まってあると乙姫さまから聞きました。」
ウミガメは、猿モンキーをはじめ、ワン太郎たちを見て言いました。
「ストレス解消の?」
と猿モンキーが聞きました。
ウミガメは言いました。
「乙姫さまは、客人の対応で疲れることもあり、リフレッシュする施設として、「竜宮ランド」を作られました。」
ワン太郎は、
「竜宮ランドは、海の中にあるのですか?」
ウミガメに聞きました。
「この付近の島にあります。」
とウミガメは答えました。
村長は、
「それは、それは貴重なお話です。ぜひその装置をお借りしたく思います。さて、まずは乙姫さまにお伺いしないと。だが、どうすれば、乙姫さまに会えるのか、教えてくださいませんか。」
とウミガメに言いました。
ウミガメは、
「乙姫さまは、いま旅行に行っておられます。」
とウミガメは、村長に言いました。
ウミガメは、
「わたしは、乙姫さまの竜宮ランドに入場できるiDカードを持っていますので、装置を取りに行くことも出来ます。」
と続けました。
「その赤潮除去装置は、乙姫さまに許可を得なくて勝手に持ち出して、大丈夫なんですか?」
と桃カブトは聞きました。
長老は、
「乙姫さまに、お話してから、ですね。」とウミガメに言いました。
「わたしは、乙姫さまの側近ですし、赤潮除去装置は、わたしの父の作ったものなので、大丈夫です。ご心配いりません。」とウミガメは言いました。
「お父さんが作ったの?!あらすごい亀なのね!ホホホ!」
雉(キジ)ヒメが驚きました。
ワン太郎は、
「それでしたら、お父上のお許しを得るのが得策です。」
村長に自分の考えを伝えました。
ウミガメは、
「父は、乙姫さまをお連れするために、旅行に同行しています。」
ワン太郎に言った。
続けて、ウミガメは、
「わたしのことを、救けて頂いた方のお礼として、赤潮を消す装置をお貸しすることは、父も、大賛成してくださいますゆえ、お気遣いは必要ありません。」
と皆を見渡して、言った。
村長は言った。
「わかりました。ありがたいお言葉、感謝いたします。それなら、ぜひお願いいたします。」
と切実な声で言いました。
ウミガメは、
「はい。ただ。」
と言って、一度言葉を止めると、
「竜宮ランドにしまってある倉庫の場所までは、わたしにもわかりませんゆえ、場内まで、お連れするので、一緒に装置のある場所を探してもらう必要があります。」
と説明しました。
村長は、感慨深く皆を見て言いました。
「ワン太郎どの、猿モンキーどの、雉(キジ)ヒメどの、そして、桃カブトどの。この役目、どうかお願いできないだろうか?この通り。」
村長は、深く頭を下げました。
ワン太郎は、
「喜んで行かせてもらいます!」
と村長をはじめ、みんなを見て、言いました。
猿モンキーも、雉(キジ)ヒメも、桃カブトも、もちろんという顔でうなづきました。
ウミガメは、
「それでは、わたし達がお連れいたします。」
と言って、首にかかっていた笛を口で咥えると、高らかに笛を吹きました。
すると、赤潮の海の彼方から、
仲間のウミガメが3頭浮かび上がりました。
「それでは、みなさま、背中にお乗りください。」
わかめを取り去った、ウミガメは言いました。
「わかりました。行こう。」
ワン太郎は、海から出てきた一頭の大きなウミガメの背中に乗りました。
「それじゃ、おいらも。」
猿モンキーも、海から砂浜に上がってきた1番大きなウミガメに乗りました。
「アタシは、軽いから、楽チンかもしれないワ」
と小さなウミガメに乗りながら、雉(キジ)ヒメも楽しそうです。
「よろしくお願いします。」
桃カブトもやさしい笑顔をした、ウミガメに乗りました。
村長は、
「頼みましたぞ!」
村人も口々に、ワン太郎たちに声援を送っています。
「行ってまいります!」
ワン太郎と、その一行は、
ゆっくり海に進んで行きます。
「竜宮ランドまでは、どのくらいいかかりますか?」
ワン太郎は、ウミガメにたずねました。
「2時間くらいです。」
ウミガメは泳ぎながら、答えました。
ワン太郎は、時間があるので、
いくつかダジャレを考えることにしました。
水平線を見ながら、のんびりしていると、突然、
「万歳、山椒!」
「魚もギョッとする!」
など、ワン太郎は、思いついた、エッジが効いたダジャレを大声で叫びました。
他のウミガメに乗る猿モンキーや、雉(キジ)ヒメ、桃カブトも、
ワン太郎のダジャレに、吹き出してしまいました。
ワン太郎の声は、海の中までも広がり、群れで泳いでいた魚までも大笑いし、ウミガメ達も、たまらず笑ってしまいました。
しばらくの間、海は笑いで包まれ、ワン太郎たちも海の生物と一緒に、楽しいひとときを過ごしました。
しばらくすると小島が見え始めました。
小さいながらも、緑豊かな島です。
「あれが竜宮ランドです」
とウミガメが言いました。
4頭は足並みを揃えて、小島の真ん中にある、洞窟に入っていきました。
その洞窟の中に入ると、キラキラした照明が、まるで虹の中にいるような感覚にさせてくれるのでした。
ウミガメは言いました。
「これから先が、乙姫さまのセンチメンタルジャーニーというアトラクションです。」
と言いました。
「これがアトラクション?」
猿モンキーは、自分が乗るウミガメに聞きました。
「はい。わたし達がゴンドラの役目です。」
ウミガメは、泳ぎながら言った。
「このまま、進むのかしら?ホホホ!」
雉(キジ)ヒメも驚いています。
「アトラクションに乗るなんて、はじめてだよ。」
桃カブトは、興味津津です。
ワン太郎の乗るウミガメは、先頭で進むと、コースが蛇行し始め、周りの壁にドクロや、骨が見えはじめました。その上、洞窟全体にどこからか、悲鳴のような甲高い叫び声が響きわたる薄気味悪い演出に、みんなはだんだん背筋が寒くなってきました。
「乙姫さまって、ホラーが好き?」
猿モンキーは、恐る恐るウミガメに聞きました。
ウミガメは、まわりを見ながら、
「このアトラクションは、最初はこのような景観ですが、この先は、さまざまなコースがあります。乗っているゲストのお顔を写真に撮らせて頂いて、その表情でコースが選択されるんです。」
と説明しました。
ワン太郎の乗るウミガメは、
「倉庫は、このアトラクションの途中や、終わりにあると思います。倉庫らしき扉が見つかったら、大声で知らせてください。」
と言いました。
「わかりました。」
ワン太郎は、周りの壁に目を凝らしています。
ウミガメ達はもっと薄暗く、だんだん狭い洞窟へと進んでいきます。
「あっ!」
突然、明るい部屋に入ったと思ったら、そこに見えたのは、人魚の姿をした等身大のような動く人形でした。
「え?」
猿モンキーは、岩に座る人魚の姿に驚くと同時に、ワン太郎の発した言葉に笑ってしまいました。
「人魚の人形〜!座布団1枚!1枚か〜い!?」
ワン太郎の声に、雉(キジ)ヒメも、桃カブトも、フフッと笑いました。ワン太郎は、自分のダジャレに高らかに笑いました。
その時、パシャっと、暗闇でストロボが焚かれました。
「なんだ。いまの?」
桃カブトが言いました。
「あれは、ゲストのお顔を撮影して、この先のコースを決める、シャッターポイントです。」
桃カブトの乗るウミガメが説明しました。
先に進むと大きな画面があり、
大口を開けて笑う、ワン太郎の顔が写っていました。
「ワン太郎、めちゃくちゃ笑顔というか、爆笑してる顔だね。」
ワン太郎は、キョトンとしています。
桃カブトは、画面に写っているワン太郎の顔を写メで撮ることにしました。
「笑う顔の写真、これからどんなコースになるんですか?」
ワン太郎は、ウミガメに聞きました。
「わたしは、こんなに笑っているゲストの写真をみるのははじめてですので、この先、どんなコースが選ばれるのか、わからないのです。」
ウミガメが答えたそのとき、みんなの体が一瞬浮き上がったと思ったら、垂直にズンと落ちました。
「うわー!」
思わず、猿モンキーは、大声を出しました。
「びっくりしたワ!ホホホ!オホホホ!」
雉(キジ)ヒメは、唖然とした表情です。
桃カブトは、
「ちょっとだけ落ちたな。脅かしやがる!」
と悔しがりました。
ワン太郎は、目の前に広がるサンゴ礁、そして、夕日に染まる景色が広がりはじめて、ジ〜ンとしました。
「これはきれいなお花!」
雉(キジ)ヒメも、感動しています。
「わかった!」
桃カブトは、閃いていいました。
「スタートは、雰囲気をわざと暗くして、あとで明るさを引き立たせるためにした、乙姫さまの演出なんだな。この方がさらに、あとでセンチメンタルな気持ちになるからな。」
感心して、桃カブトが言いました。
しばらくするとゆっくり空が暗くなり、満天の星空に代わる景色の中にワン太郎たちはいました。
あまりのきれいな星空と、眼の前にある星に照らされた美しい景色に、ワン太郎の頬には涙がこぼれていました。
「ワン太郎、あれ!」
感激している猿モンキーがおぼろげに光る扉を見つけて指さしました。
そこには、保管庫〜STORAGE〜と書かれた扉が見えました。
「あれじゃないか?倉庫?」
桃カブトも、ウミガメの背中で、身を乗り出しました。
「行って見ましょう。」
ウミガメは、扉の方に進路を変えました。
扉は自動で開き、大きな棚が並んでいる水路に出ました。
先にある棚の1番下に、白いボックスが見えました。
「ありました!あの白い箱が、赤潮除去装置です。」
ワン太郎の乗るウミガメを先頭に、水路の先にある棚まで行くと、棚の白いボックスに手を伸ばして、ワン太郎は引き寄せるようにして、箱を抱きしめました。
「これが、赤潮を消せる装置!」
ワン太郎は、独り言のように言いました。
「やったね!ワン太郎!」
と、猿モンキーが言いました。
「見つかって、よかったです。」
猿モンキーが乗るウミガメも、嬉しそうに言いました。
「それじゃ戻りましょ!ホホホ!」
雉(キジ)ヒメは、高らかに言いました。
桃カブトも満足そうです。
ウミガメ達は、Uターンすると倉庫の扉に向かい、扉が開くと、さっきのコースへと戻りました。
しばらく花畑は続いていて、みんなは見とれていました。
「わたし達は、母なる自然に感謝し、これからも守り、一緒に暮らします。」と書かれたメッセージが扉にあり、その扉が開くと、海に戻っていました。
みんなは泣いていました。
村に戻ると、みんなは竜宮ランドで体験した出来事を村人に説明しました。
村長は、竜宮ランドのセンチメンタルジャーニーでの広がる景色の話を聞き、その内容に涙しました。
ワン太郎たちが持ち帰ったら白い箱にはメモが入っていて、それによると、海にこの箱を置くだけで、動く装置だということがわかり、早速、ワン太郎は波打ち際に装置を置きました。
白い箱の横から水を取り込む音がしはじめ、ワン太郎、猿モンキー、雉(キジ)ヒメ、桃カブトは、深く息を吸いました。そして、それを見た、村人の顔には安堵が広がりました。
桃カブトは、村人のみんなに思い出の写真を見せたかったと思いましたが、写メを取りそこねていたことに後悔していました。
たった1枚だけですが、ワン太郎の表情が写った画面を写メで撮影したのを思い出し、みんなに見せました。
大きな口を開けた、目が開いていない、舌を出したワン太郎の写真に、村人は大笑いしました。
しばらくワン太郎は、「ビックマウス」、「舌ベロ太郎」、「顔面王子」と散々言われましたが、素直に受け止めて、みんなにしばらくとめどない笑いを提供しました。
それから3日目の朝、ワン太郎たちが朝早く海を見に行くと、青い海が朝日でキラキラ輝いていました。
昨日までの赤潮はすっかり、消えていました。
ワン太郎が、うしろを振り返ると、猿モンキーも、雉(キジ)ヒメも、桃カブトも泣いていました。
ワン太郎も涙が溢れてきて、気がつけば海に向かって走っていました。
みんなは、自然をさらに大切にして、そのすべてを守り、家族として暮らして行こうと思いました。
ワン太郎、猿モンキー、雉(キジ)ヒメ、桃カブトは、それからも、
村人から英雄として慕われ、彼らの勇気ある行動を讃え、末永く語り継ぎました。
みんなは幸せを感じながら、それからも、ずっとずっと、清らかな海を見て過ごしていきました。
おしまい。
桃太郎伝説 異伝 ワン太郎の冒険 柏木星凛(せいりん) @seirin1985
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