第2話 狙われたワン太郎



ワン太郎の大ピンチ


鬼ヶ島から、ワン太郎と、猿モンキー、そして、雉(キジ)ヒメ、桃カブトが村に戻ってきて、しばらくのあいだ、平和で、健やかで、おだやかな日が続いていました。


ワン太郎は、村の主食であるバナナ畑の仕事をやり終えると、うっそうとした木の下に寝転がりながら、いつも昼になると仲間たちが昼ごはんを持ってくるので、それまでの間、優雅な小休憩を満喫していました。


すると、通りがかりの行商人らしき若い男が、ワン太郎に声を掛けてきました。


「すみません!赤バナナ売りのタキチと申します。リヤカーを引いてきたのですが、車輪が小さな泥のぬかるみに、はまってしまい出られなくなりました。リヤカーをぬかるみから出すのを、一緒に手伝ってもらえないでしょうか?」


いつも親切なワン太郎は、

「喜んでお手伝いしますよ。」

と、颯爽と立ち上がりました。


ワン太郎と若者がリヤカーのところまで来ると、猿モンキーと、雉(キジ)ヒメ、そして、桃カブトが昼ごはんを持って、こちらに歩いて来ていました。


猿モンキーは、ワン太郎に、

「おや、赤バナナかい?珍しいね!」と、赤バナナと若者を見て言いました。


「そうなんですが、赤バナナを積んだリヤカーがぬかるみに、はまってしまって、今このお方に助けてもらおうとしてたところで。」

と若者は言いました。


雉(キジ)ヒメは、「赤バナナがめじろ押しだこと、ホホホ!」

とのんきに、うれしそうな声を上げました。


桃カブトは、

「この若者、見たことがあるな?」と心の中で、つぶやきました。


「後ろから押すので、引いてもらえますか?」

とワン太郎は、若者に伝えると、若者はすぐさま、リヤカーを引き始めました。


「せーの!」

ワン太郎は、ちからいっぱい、リヤカーを後ろから押すと、リヤカーは弾むように、泥のぬかるみから押し出されていきました。


「よかった!よかった!」

そばで見ていた猿モンキーは、感心して言いました。


雉(キジ)ヒメも、

「お礼にバナナかしら?」

とうれしそうです。


一方、桃カブトは、

「誰だっけか?」

まだ、若者のことを考え続けていました。


若者はワン太郎に、

「もしよければ、これ食べてください。」

と言って、ワン太郎に、赤バナナをくれました。


「これは、ありがたい。でもいいですよ。」と一度は断ったワン太郎でしたが、昼ごはんをこれから食べるところだったので、ありがたく頂くことにしました。


若者は、物欲しそうに赤バナナを凝視している猿モンキーや、特に切羽詰まった顔をした、雉(キジ)ヒメにも声を掛けました。

「あなた方も、なにかの縁。赤バナナ、よかったら食べてください。」

若者は赤バナナを差し出しました。


桃カブトは、嫌な空気を出し続けていたので、若者は無視しました。


すると、バクっと、赤バナナを一口食べたワン太郎は、急に目つきが変わり、恐ろしく凶暴な口調で喚き散らしました。


「おまえら、俺の前にひざまずけ!」ワン太郎の声は、しわがれて、別人のようです。


「このすっとこどっこい共!早くバナナを持ってこい!」


猿モンキーは、

「な、な、なんだって!」

と、ワン太郎をマジマジと見ました。


雉(キジ)ヒメは、

ワン太郎のあまりの変貌ぶりに、

「どうしちゃたの?ワン太郎!」

と驚きの声を上げました。


若者は、

「あははは!ははは!とうとう、ワン太郎も、僕の手下になりさがった!ははははは!」


笑い出した、若者を見て、

桃カブトは、叫びました。

「君は、隣村の銀太郎!」


「よくわかったな!これから、お前達の村も僕の支配をうけるのさ!」と銀太郎は、上機嫌で、

ワン太郎に指示を出しました。


「さあ、ワン太郎!村の食料のバナナをひとつ残らず、巻き上げて、ここに積み上げるのだ!」


「かしこまりました!ご主人様!いや、銀太郎様!」


ワン太郎は、土下座をしながら、

言いました。


「これは、罠だ!バナナの中に何か入っていたに違いない!」

推理が得意な桃カブトは、銀太郎がわざと、リヤカーを泥沼に入れて、ワン太郎に脱出を手伝わせ、そのお礼にバナナを差し出し、食べさせる計画だったと、長い仮説を瞬時に立てました。


「よくわかったな!計画の前にバレると思い、ヒヤヒヤしたぞ!桃カブト!」


銀太郎は続けた。

「僕は小さい頃から、兄の金太郎の弟として、常に2番目という屈辱を受け、比較され、日の目をみない情けない日々を送っていたんだ。隣の村には、ワン太郎という人気者がいて、鬼を退治してきて、いまや伝説の英雄になっているというので、どうしようもなく嫉妬して、毎日悔しかった!ワン太郎にマタタビを染み込ませた、赤バナナに食べさせ、麻痺させて、僕の家来にすることを思いついたのさ!」


「マジか!?」

猿モンキーは、唸り声を上げた。


「え!マタタビ!?」

雉(キジ)ヒメも、あっけにとられている。


桃カブトは、

「え~と、ワン太郎は伝説の英雄というより、人が良いだけのお笑い芸人みたいな存在なんだ。勘違いしてないか?」と銀太郎をなだめました。


銀太郎は、

「うるさい!僕は、支配者なんだ!楯突くやつには、渋柿を食らわせるぞ!」と叫びました。


その直後、ワン太郎は、すくっと立ち上がると、村人の家に向かって走り出しました。


ワン太郎は、片っ端から、村人の家を回り、主食であるバナナを奪っていきました。


一行は、皆でワン太郎を止めようとしましたが、はじめて見るワン太郎の怪力で、投げ飛ばされてしまいました。


そのあと、ワン太郎は、庭にふんをまきちらしたり、道の真ん中に落とし穴を掘り、村人を落としたり、ヘビを村人の家に投げ込んだり、悪事の限りを尽くし、村の人々をとても困らせていました。


そして、ワン太郎は夕方近くに、村の中心に巨大なバナナの山を築きました。

その山は空に向かって高く高く積み上げられ、バナナの塔として村の景観として、空にそびえ立っていました。ワン太郎は笑いながら、自分の巨大なバナナの山を眺めました。


銀太郎は、満足げに、バナナの塔に登り、自らの権力に酔いしれました。


しかし、そのとき、突然の出来事が起きました。バナナの山の上で仁王立ちしていたワン太郎の足元のバナナが潰れ、バランスを崩し、ワン太郎は、バナナの山から転げ落ちてしまいました。

そして、巨大なバナナの山は崩れ、銀太郎も、バナナに埋もれ、バナナは村のあちこちに散らばりました。


「あれ?なんだこれ?」

ワン太郎は、山から落ちたショックから、我に帰ることが出来ました。


銀太郎は、バナナの海の中から立ち上がり、恥ずかしさと怒りに顔が真っ赤になりました。

しかし、彼の悪事に辟易していた村人たちは、彼らの姿を見て大声で笑いました。

この出来事が、銀太郎と、ワン太郎の運命を変えることになることを彼達は知りませんでした。


銀太郎と、ワン太郎は、盗んだバナナを村人に返すため、一軒一軒回り、謝罪しました。

また、銀太郎は村の子供たちに大きなバナナの木を育てる方法を教え、村の長老たちにはバナナの新しい品種を育てる方法と、バナナが育ちにくい問題を解決する手助けをしました。


銀太郎は次第に村人たちと仲良くなり、彼らの笑顔を取り戻すことに成功しました。


ワン太郎の努力は実り、村は以前よりも繁栄し、バナナの木が生い茂るようになりました。

銀太郎は自分の過去の行いを後悔し、新しい友達を得たことで幸せを見つけました。


銀太郎は、ワン太郎と一行と、村人たちと共に大きなバナナ祭りを開催し、塔を作り、バナナの山を崩して埋もれる、バナナ落とし、というイベントを作り、村人は、幾度もなく、たくさんのバナナに埋もれました。


ワン太郎は、バナナの山から転げ落ちたことを、村人から「ローリングストーン」や、「おスベり君」と、散々バカにされましたが、ワン太郎は、すべてを受け入れ、あらためて、村の発展に努めることを約束しました。


ワン太郎と、猿モンキー、雉(キジ)ヒメと、桃カブトは、新しい友達と共に、村で幸せに過ごしました。


おしまい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る