1章:ルーザー
第21話 ミニチュア
———斬る。
「ァァァァァァァァ」
———断末魔。
「クガ…ガフッ」
———斬る。
「……………」
———静寂。
「片付いたな」
「…アンタって、ホントに魔力ないわよね?」
「…ふわ〜〜」
この世界に来て分かった重要な事の一つ。
「剣が凄いだけだ」
「いやいやいやそれだけでオーガを両断は無理だから、普通」
剣の一振り一振りが、凄まじい性能をしているということ。素材となった金属なのか加工技術によるのかは不明だが、日本刀を遥かに凌駕する名もなき名剣ばかりなのだ。
「魔力を込めるんだよな、普通は」
「たりまえでしょ」
「…魔力があったらどれ程の切れ味に」
「あ、ちょうちょさんだ〜綺麗♪」
「呑気なもんね、チンチクは」
クラミーノは水際の黄色く発光する蝶を眺めて何か鼻歌を歌っている。調査記録の紙の角にそれとなくその光景を描いておく。文章だけでなく、軽いスケッチなども記録としての価値が高まるらしい。
「…美しい場所だな」
「見た目だけはね」
「〜♪」
天井に並ぶ岩のツララから透明な液体が滴り落ち、クラミーノの前にある小さな湖へ合流する。白煙の上がる湖の上を蝶々が飛ぶと、瞬く間に黒く変色して水面へと墜落してしまった。水色に輝く湖畔の底には蝶々のように黒く変色した塊が大小点在していて、リファリーの言葉の重さを如実に俺に教えてくれた。
「チンチクー、くれぐれも落ちるんじゃないわよ」
「…? わっ」
「!? クラミーノ!」
「いててて…あ、だ大丈夫です。ウン」
これもまた重要な事の一つ、魔法という万能の力の一端だ。
「気をつけなさいよ? あんまり触ってると服に穴開くんだから」
「え え、そうな、の?」
「…」
強酸の池に入っていながらクラミーノの身体も服も無傷のまま。あまりに違和感のある景色に目眩すら覚える程だ。俺も手袋を外して、恐る恐る掬ってみる。
「…魔法そのものだな」
「何やってんの? さっさと奥に行くわよ」
「あ、トカゲだ」
俺の手は強酸に溶かされずに、むしろそれを支えているほどである。飲むのは流石に無理と聞いたが、こんなものを飲みたい奴はいないだろう。クラミーノの魔法が凄いのか、魔法そのものが凄いのか…どちらにせよ、呑気で小さな背中が急に大きく見えてくる。
小瓶に強酸をサンプルしておいて、2人の後を追いかけた先に広がっていたのは。
「…遺跡?」
ピンク掛かった紫の岩の塊達は、人工物めいた形状と構造をしていた。しかしそれは粗悪な模造品の様に奇妙な不気味さを持っている。
「違うわ。これはアーク。ダンジョンを作った存在が地上の世界を真似て造ったミニチュアよ」
「…ミニチュア?」
「そ」
「わ〜綺麗〜」
階段がS字で途中で途切れていたり、入り口が過剰に小さかったりと曰くミニチュアの出来は最悪だ。ダンジョンなんて大掛かりな物を作ったのなら細部にもこだわりを持っていておかしくないと思ったが。
「おいでなすったわよ」
「あれは?」
人間のパーツをランダムに付けたような人形達が何処からともなく湧いてくる。和製ホラー映画に出て来そうな見た目をしていて、怖いものがダメな奴なら飛んで逃げるだろう。
「オートマタ。ヒト族のミニチュアって事ね」
「? このダンジョンの中に新しく世界を作りたかったのか」
「さあね」
「あ、戦闘ですよ、ね。『
クラミーノの魔法を受けて膝の力を抜いて摺り足に…早過ぎる!!!
「ッッツ…! あぶなっ」
「あんま前出過ぎないでよー」
「分かってる」
あまりの加速力に勢い余って人形の一体の懐まで入ってしまった。居合の一撃で衝撃を緩和して事なきを得たが、今のは相当焦った。
「前!」
「あぁ」
オートマタの拳が振りかぶられ目と鼻の先まで接近する。恋人同士ならチューは不可避の間合い。下半身の力を抜き、重力に身を任せ…斬る。
「チンチク、アイツって人間よね?」
「そ、そうだと思いますけ、ど。ハイ」
こんなに身体が軽くて力も漲ってくるなんて、初めてだ。剣を振りたいタイミングで振りたいところへ振る…それだけの動作がただ楽しい!
異世界でも俺は、敗者の座を欲しいままに— 溶くアメンドウ @47amygdala
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