カップ麺の流儀(4) 応用調理

 「鉄の掟」。何だか破ったら死人が出そうな位、恐ろしいその一言に身震いをしてしまった。ただ実際は分かりやすいもの。秋風が教えてくれた。


「簡単な話。食べられないものを買ったり、頼んだりしてはダメってこと。雑誌を作る上としては、そこは大事なことね」


 納得できるものではあった。よくテレビ局や雑誌記者なんかが食べきれずに用意されたものを残して帰るなんて問題をネット記事で見掛けている。当然、食べてくれる人もいるのだが。

 作った人に嫌な思いをさせるような雑誌記者などにはならないとのこと。

 話をしているうちに秋風が信用できるように思えてしまった。クラスメイトとして、ここまで本格的に会話したのは初めてなのに不思議な話だ。


「確かにバイキングとかでも食べきれないのによそってきちゃってというのはアウトだよね。普通に罰則とかある店あるし」

「そーそー」


 しかし、だ。ふと思ってしまったこともある。


「でも、カップラーメンの汁とかってどうしてる?」


 ここの質問に関して三者三葉の答えが返ってきた。それも面白いものだ。


「そこまでは飲まないわよ。塩分の摂りすぎになっちゃうし。それに今はラーメンの汁を捨てるのに固めてくれるものとか売ってる訳だし」


 まず腕を組んでいる菜月から返答が来た。言い分は最もだ。塩や脂肪分がぎゅっと詰め込まれている。一度飲んだだけで病気になるとの考え方は極端ではあるかもだが、それでも不安は失くすに越したことはない。秋風は「たくさん食べてるくせにそこだけは気にするんだ」と呟いて、菜月に「うっさい」と言われていた。

 そこから秋風が喋っていく。


「カップラーメンの汁は飲んでるかな。結構美味しいし。生麺とか茹でて入れて、替え玉つけ麺とかしてると気付いたら無くなってるって感じかな?」


 菜月とは真逆のよう。

 今度は雪平が小さく口を動かした。ボソッと喋ってはいたが、聞き取れないことはない。


「汁の中に、卵……ドボン。レンジでチンすれば、意外に美味しい……茶碗蒸し……」


 前に聞いたことはあるが、実践できていないものが出てきた。菜月はそこに思い当たりがあるらしく、「そういや、この前めっちゃ美味しい茶碗蒸し食べたけどあれ、残り汁だったの!?」と。

 と話しているうちにハッとして我に返っていく彼女。


「って、そうそうあたしが疑われる話になってるけど、そもそもあたし辛いの全くダメだから! 試そうとかって思わないし! その鉄の掟があるから残そうだなんて考えないし! そもそもそれだったら、どっかに麺やパックが捨ててあるでしょ?」


 一応、辺りを探ってみる。麺なら排水溝などに入れられるが、カップや包装については流し込めない。ゴミ箱に捨てるしかないのだけれども、見当たりはしない。ただ、他の場所には捨てたとも考えられるが。

 ただ、だ。一応狂気的な辛さのカップ麺。中身を捨てたとして蒸気を保った状態で家庭科室の外を走れるだろうか。菜月以外にも健康被害を訴えるものが出たとしてもおかしくない。

 そしてそれは菜月以外にも関わらず、だ。他の犯人だとしても、危険物を持って走れるか、だ。

 秋風の方は考えている。


「何にせよ、この中に犯人がいる可能性がいたとしたら、ゆゆしき問題だよね。食べ物を無駄にしたかもしれない。食べ物を人の嫌がることに使ったかもしれない。それは『グルメ研究部』として問題のある行動だし……廃部になりかねない」


 だから調べるしかない、と。


「捨ててないとしたら、もしかしたらとんでもない場所に保存してあるかも」

「そうやって、まだあたしを疑う!」

「加恋だけじゃないって。それにもし、保存してたとなれば、他の人が犯人だとしても、鉄の掟を破ったことにはまだならないし……」

「そ、そっか……じゃあ、とにかく探せばいいのね!」


 菜月は食器が入っている棚を開けている。食器の中に激辛カップ焼きそばが隠されていると考えているらしい。僕は別の場所をチェックする。コンロの下などに色々ボールやらざるやらが置かれている。そこにある可能性をと散策する。

 秋風が見ていたのは炊飯器の中。ぱかっと開けた状態で首を横に曲げる。


「あれ? こんなかにご飯入ってたんだけど、菜月食べた?」

「えっ?」

「ご飯とカップ麺って合うじゃん! カップ麺の研究を記事にしようと思ってたんだけども……それにご飯って不可欠だし……それに後、さっきも言った話なんだけど、ラーメンの残り汁を使ったチャーハンが美味しいんだよね。まだ食べたことはないけど。ねっ、友継」


 名前を呼ばれたはずの彼は気付いていないのか、せっせと冷蔵庫の中身を見つめている。秋風は反応されなかったことに対して「もう冷たいなぁ」と。

 更に雪平は探すことはしていなかったらしい。


「まだ、氷……できてない」


 製氷機の中身をチェックしていただけなのである。その発言に関して、不意に菜月がぴゅーぴゅーと明後日の方向に鼻歌を吹いていた。どうやら氷を食い散らかした犯人は彼女で決まりのよう。

 結局、犯人は分からないまま。食器を動かしていた菜月もがっくりと肩を落とす。


「ないじゃーん!」


 食器棚に手が届かないがために踏み台として使っていた椅子を戻しながら文句をぶつくさ。

 秋風は「まぁまぁ……」と言って、ポットの方を持ち出した。買ってきていたカップラーメンを取り出し、お湯を注いでいく。


「一旦、これでゆっくりしよ。私チーズカレー!」

「あっ、ズルい! ってまぁ、あたしはきつねうどんなんだけど!」


 雪平がこちらを見て、残っているそばと醤油ラーメンどちらかにするかと目線で伝えてくる。自分は醤油ラーメンの方をいただくことにした。

 普通だけれども。それでも何だか食欲の出る匂い。カップラーメンには不思議な力がある。ワクワクする数分を作り出す力。

 ただ菜月の方が我慢ができず、まだ三分すら経っていないのに食べようとしている。そして「うわっ! あつっ!」と。当たり前だ。熱々だから気を付けなければ。

 との考えたところで、ふと思う。

 熱いならどうするか。

 消えていた炊飯器のご飯。

 あの人の妙な態度。

 グルメ研究部。

 キーワードを取り出し、考えれば、考える程に面白い答えが見つかるような気がしてならない。僕は考えている間に三分経過して、完成したラーメンを一口啜ってから、呟いた。


「犯人が分かったかも」

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この部活、謎解き食べ放題! 夜野 舞斗 @okoshino

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