3
夏休みが始まって間もなく、ママが部屋に来て手話で私にこう言った。
〈念のため、ウィルと待ち合わせした場所に一緒に行きましょうか?〉
そう、今日はウィルと会うはずの日だ。
私は待ち合わせ場所までママに車で送ってもらった後、ウィルが運転する車に乗って一緒に何処かに行く予定だった。
だけど、細かいことは何も決めていないし、結局ウィルからの連絡もない。
私は首を振った。
〈本当にいいの? 彼が来ている可能性だってあるのよ?〉
私は再び首を振った。
彼が来てくれるかもしれないなんて期待しながら、待ち合わせ場所で待ち続けるなんて私にはできない。きっと途中で心が折れてしまう。
今日はウィルのことを考えないようにして過ごそう。私は決心した。もっとも、そんなの不可能だって分かってはいたけど。
次の日のことだ。
私が本を読んでいると、洗い物をしていたママが手話で私に玄関に行くように言った。
玄関のチャイムが鳴ったらしい。
普段、私が玄関のドアを開けることは少ないから、私はうっかりドアスコープを覗くのを忘れて、ドアを開けた。
「・・・・・・・」
私はたっぷり10秒くらいはそこで固まっていたと思う。
ドアの向こうにいたのはウィルだった。
通じると思っていたわけではないけど、私は手話で〈なんで?〉と言った。
彼はニヤッと笑って私を指さした。……意味は
私が驚いて彼を見つめていると、彼は自分の胸に手を当てた。意味は……
それから、ゆっくりと頭の横で腕を回し、自分の顔の方に手のひらを向けた……
意味は……
私が見つめているウィルが、涙でぼやけてきた。
なんであなたがここにいるの? どうして手話ができるの? 一体あなたは何を考えていたの?
私は泣きながら、彼に抱きついた。彼は優しく私を受け止めて、そっと撫でてくれた。
後から話を聞いたところ、彼は私の秘密を聞いてから、ずっと手話の練習に没頭していたらしい。
そのせいで、メールをする暇もなかったという。確かに、彼の手話は二週間で身につけたとは思えないほど上手かった。
昨日は、一日中待ち合わせ場所で私を待ってくれていて、私が行かなかったから、誕生日プレゼントを送った時の住所を頼りにここまで来たそうだ。
私も、彼のためならこれくらい、いや、これ以上の事でもするだろう。
だって、彼は私の太陽だから。
もちろん、私なら真っ先に文字を書いてコミュニケーションをとることを思いついただろうけど。
君は僕の太陽 Quill pen @22076an
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます