ところで、今日はとっても嬉しいことがあった。

 ついに、ウィルと会うことになったの! この夏休み中、彼はダラスの祖父母のところに泊まることになったんだって。

 私が住んでいるのはそれよりもっと田舎だけど、ウィルが彼のおじいさんの車を借りて会いに来てくれることになった。

 あと二週間で、とうとう彼に会える!


 でも、私は単純にそれを喜ぶことはできなかった。

 なぜなら、私は重要なことを彼に言っていないから。

 本当はもっと前に言うべきだったんだけど、彼に嫌われるのがいやで言えなかった。

 もちろん、それは簡単に隠し通せるような秘密じゃない。そして、それを言わざるを得なくなる時がついにきてしまった。


               ◆ ◇ ◆ ◇


Will : 「ジェス、今から電話をかけても構わないかい? 待ち合わせの時間とか、どこに行くかとか、細かいことを決めるなら、電話で話した方が早いだろう?」


Jessica : 「それは、ダメよ」


Will : 「どうして?」


 ああ、もう誤魔化すのは無理だわ。もう本当のことを言わなくちゃ。


Jessica : 「実はね、私、今まで秘密にしてきたことがあるの。本当はもっと早く言わなくちゃいけなかったわ。ごめんなさい」


Will : 「謝ることないよ。ちょっと驚いたけど、確かにメールじゃ言いにくいこともあるからね」


 違うの。私のはそんな小さな秘密じゃない。これが、私が学校で孤立している原因でもある。


 それは……


Jessica : 「私、耳が聞こえないの」


「ずっと秘密にしていて本当にごめんなさい」


Will : 「うん」


 どうしてだか分からないけど、私には彼の返事がとても素っ気ないように感じられた。

 私は、この後なんて返せばいいのか分からなかった。ウィルも、それ以上何も言ってこなかった。


               ◇ ◆ ◇ ◆


 ああ、終わったんだ。


 一年近く彼のことを想い続けてきて、あと二週間でやっと会えることになったのに、これで関係が終わってしまうなんて。


 ママは明日になったらまたメールしてくれるかもしれないと言って私を励ましたが、実際には、彼からは何の連絡もなかった。

 私も、彼にメールする勇気がなくてできなかった。だって、もし返信が来なかったら私、耐えられないもの。


 次の日も、その次の日も、連絡はなかった。


 私は段々、ウィルが連絡をくれないのは、隠し事をした私に怒っているせいじゃなくて、私がハンディキャップを負っていると知ったせいじゃないかと思えてきた。

 それでも彼に腹は立たなかったし、むしろ自分に腹が立ったくらいだけど、もちろんすごくガッカリした。

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