第63話 エピローグ 青空

 個々の人達によって時間が前後いたします。


―――――


 俺は、今回の事案、大頭美代の刑を懲役二年執行猶予四年の判決にする事が出来たおかげで、美代さんのお父さん大頭大二郎さんから事務所に法律に沿った金額とは言え、多額の金額を払って頂いた。


「雄二君、また勝ったな」

「前田さんのお陰です。俺は手伝いをしただけです」

「いや、今回は違う。君が水戸まで何度も足を運び大頭さんの人間関係を幅広く君の視点から調査した結果だ。

 私はただ形を示しただけだ。おめでとう。しかし新人に二連勝されるとはな。私も頑張らないといけない」


 他の弁護士からも

「我々も驚いています。勉強出来たからって、実践においては素人…のはずなのに一条君は、ものの見事にやりのけたんだからな。見事なものだ」

「いえ、そんな事は」

「無敵の前田事務所の歴史がまた塗り替えられましたね」

「ああ、皆さん、我々も頑張りましょう」

「「「「はい」」」」



 今回の件で、俺のベースが上がった。その上インセンティブも貰った。何とも恥ずかしい限りだ。

 

 自惚れる気はさらさらないが、足が浮かない様にしないと。今日は久しぶりに定時で帰れそうだ。




 私、大頭美代。今回の事件がテレビでニュースになってから、地元とはいえ、殺人者という目で見られるのは痛かった。


 事情を知っている友人や近所の人はともかく、テレビにまで顔が映ってしまった事で外を歩くと何処からともなく軽蔑の視線を感じて出歩くのが辛い。


 出来れば私を知らない街に行って暮らしたい。お父さんのお仕事にも少し響いている様だけに責任を感じている。



 私を弁護してくれた一条雄二弁護士はモデルの様にカッコいいし、面談の時もとても優しく私が心を開くまではぐっと待っていてくれて、話し始めても丁寧に噛砕く様に私の言葉を理解してくれた。


 被告人が弁護士に恋するなんて考えてはいけないけど、片思いだけなら許されるはず。今回の事が落着くまで東京に出ていようかな。


 でもお父さん悲しむか。今度の事でお父さんには言葉に言い表せられない位迷惑を掛けてしまった。やっぱりお父さんの傍に居よう。


 今日も良く晴れた秋晴れ。一条さんってあの青空の様に何処までも透き通った心の持ち主なんだろうな。




 私、深山加奈子。大学卒業の時に得た二つ隣街の小学校の非常勤教師も退職者が出たおかげで正規の教師となった。もう四年半いる。来年三月で丸五年だ。私がこの小学校に来た時に入学した生徒は来年六年生になる。早いものだな。


 そう、私の年齢も二十八才。親からはそろそろ良い人がいないのかなんて言われている。


 同じ同じ小学校の男性教師から声を掛けられた事も有ったけど、同じ職場で恋愛をする気は無い。


 それにいけない事だと分かっていても雄二と比べてしまう。そんな事してはいけないのに。


 隣に住んでいた雄二達は、奥様のお腹が大きくなってからどこかに行った。引越したという程じゃないから多分奥様の実家に行っているんだろうけど、もう帰ってこないのかな。雄二の顔が見れないのは辛い。


 そう言えば、日曜のワイドショーで後藤隆が捕まったと言っていた。不動産会社として前からも悪い事していたらしく、何年も刑務所から出て来れないとかって解説者が言っていたけど、もう私にとってはどうでもいい事。今更あの時の事を考えても仕方ない。

 

 雄二と何度もここの公園に来て空を見ていたな。あの時はつまらなくて嫌だったけど、今の青空を見ていると雄二と一緒に居る気がする。ふふっ、駄目だな私。




 私、高原千代子。丸山大学を卒業して、英文学部を出た事を武器に外資系の会社に入った。勿論日本人もいる。


 でも専門用語が多くて、追いついて行けず、議事録も碌に取れない、会話も理解していないし、私が話しても何言っているか分からないと言われ、形だけの自主退職になったけど実質首の様なものだ。私の英語力なんて、実践ではどれほど役に立たないか思い知らされた。


 でも地元の街の英語教室では、私の英語力でも通じた。おかげでアルバイトだけど、小中学生向けの英語を教えている。お金が溜まったら、英語教師になる為、もう一度大学に戻るつもり。


 なんでこうなったなんて考えない。雄二の奴が言う事聞かなかったからだなんて昔は思っていたけど、あいつの所為にしてもどうにもならない。


 この前テレビのワイドショーを見ていたらイケメン弁護士とか言って紹介されていた男が雄二だと直ぐに分かった。


 頭に来るくらいかっこよかった。あいつと一緒になっていれば今頃札束のベッドで寝ていられたのに。まあ、仕方ない。叶わない夢でも見たんだろうな。






 それから十年後。


「優佳止めなさい」

「いや、お父さんの足に摑まっている」

「歩けないじゃないか」

「じゃあ、抱っこ」

「重いのに」

「お父さん、僕も僕も」


「あなた、優佳ばかり見てないで雄一郎も見てあげて」


 千佳が優香を産んでから三年後、男の子が生まれた。元気な男の子に育っている。


 妻の千佳は、産休を終えた後、同期とは少し遅れて警視になり捜査二課長になった。お父さんは警視総監として警視庁のトップにいる。


 子供を産んで落着いたせいか、女性として一段と輝きを増している感じがする。庁内では二課のマドンナ課長とか呼ばれて迷惑していると言っていた。


 お爺ちゃんもお婆ちゃんも元気だ。子供達と近くの公園に行って一緒に遊んだ時は、息を切らして腰が痛いとか言っていた。


 家族の墓参りは、事案を抱えていても月命日には必ず行っている。優佳が生まれた時や雄一郎が生まれた時は、何故かお墓が微笑んでいる様な気がした。


 俺はと言うと、前田法律事務所でパートナーになった。そして俺の後輩達も何人か入って来た。


 若い人からは何故かイケ兄と呼ばれている。そしてクライアントに女性が多くなった。四年前にイケメン弁護士とか言ってテレビのワイドショーで紹介されたからだ。


 本当は出たくなかったのに、所属している弁護士会の会長から弁護士もイケメンが居る事を見せてやってくれと言われ、前田さんが笑いながら、いいじゃないか出てこいなんて言うものだからちょっとだけと言って出たのに、やれ芸能界で十分やっていけるとか、モデルだけでもしたらとかふざけた事を言われた。


 俺が苦笑いしたら、局アナの人がいきなり抱き着いて来た。そしてこれもシナリオだからと言って離れてくれない。一体この業界どうなっているんだ。


 この番組を見た千佳がいつもの様に怒って、夜はもう駄目ってくらい攻められたし。もう絶対にメディアには出ない。



 今日も事案を抱えた濃い化粧をした女性達が、何人も来ている。担当分けしているのに、俺が担当しないと怒ってしまう我儘なクライアントもいる。困ったものだ。



 そう言えば、検察官となった神山奈央子と同じ事件の担当として裁判所で会った。この時、俺は被告人の弁護だった。

 

 当然、検察側とやり合う事もあり、その時神山奈央子が検察側を代表して被告人に質問していた。

 誘導尋問的な要素が強く出ていたので裁判官に質問を止める様に要求した事も有った。


 彼女は優秀で今までの検察のやり方をしない。むしろ弁護側がどう動くか考えてカウンターを当てに来る方法だ。その上で被告人の罪の重さを表現する。中々のやり方だ。


 この裁判は二年半も掛かってしまった。だけど検察側求刑禁固十年に対して情状を酌み執行猶予付きの判決を要求した。

 

 結果は、懲役三年執行猶予五年という猶予期間つまり監視期間が長い判決だった。


 その間にも裁判の休憩の時は、裁判所の会議室で彼女と随分遣り合った。彼女は何故かいつも嬉しそうな顔をしている。こちらが気を緩める作戦でもしているのかと勘違いする程だった。


 そして裁判が終わると、今度はベッドの上で闘争しても良いわよととんでもない事を言ってくる時も有った。


 俺は、検察官として既婚者に対する不適切な発言の責任を問うぞと言うと、ぜひやって欲しいわ。なんて言い出す始末。早い所他の男でも見つければいいのに。


 そして何故か俺が弁護する裁判の時は必ず神山奈央子が検察側の代表になって来る。あいつ、わざとしているのか。検察って個人の都合聞いてくれるところなの?





 今日は妻と子供達を連れて、俺の家に皆で掃除に来ている。毎月一回位来れればいいのだけど、今回は三か月ぶりだ。大分埃が溜まっている。


「お父さん、この人達は?」

 俺の家族の写真を見て雄一郎が聞いて来た。そうすると優佳が


「雄一郎、この人は、お父さんのお父さん、この人がお父さんのお母さん。そして真ん中の人がお父さんの妹さん。沙耶さんって言うんだよね。お父さん合っているよね」

「ああ、間違いない」


 流石に子供たちは掃除の頭数に入らないが、それでも千佳と一緒にやって、午前中で何とか終わった。優佳が


「お母さん、お腹空いた」

「あなた、近くの公園で食べましょうか。とても晴れているし」

「そうだな」

「二人と行くわよ」

「「はーい」」



 久々に実家のある街の歩いて十分位の所にある川べりの公園に来た。千佳と子供たちがシートを敷いている。


「さっ、食べましょうか」

「「はーい」」


 俺は、向こうの山々を見ながら思い切り透き通る様に晴れている青空を見た。


「あなた、どうしたの?」

「いや、何でもない」


 もう昔の事だ。


「ふふっ、青空ってあなたの心の様ね。何処までも透き通って綺麗」


 そうかな?




 終わり


―――――

最後まで読んで頂いた読者の皆様。大変ありがとうございました。また多くのご感想をお寄せ頂いた読者様、大変ありがとうございました。


 この物語いかがでしたでしょうか。

 高校一年で家族を亡くし、親戚からも慰謝料を取られた挙句、追い出され、戻って来れば幼馴染に裏切られる。

 とんでもない不幸を背負った高槻雄二でしたが、前田弁護士という雄二の良き味方が現れ、大学を卒業するまでしっかりと彼を見守ってくれました。

 親譲りの容姿が故に多くの女性から声を掛けられましたが、最後には一条千佳と結ばれ、末永い家族の幸せを手に入れました。

 題名、青空の意味。分かって頂けたでしょうか?


 今回も毎日投稿してしまい?疲れましたが、これからも新しい作品を投稿して行こうと思います。これからも私の作品、末永く宜しくお願いします。

 論文が留まっている!


新作投稿しました。近況ノートに書いています。(2023/11/11) 

いつも私の作品を読んで頂いている読者の皆様。新作を投稿開始しました。


「可愛い男子は恋愛できない?可愛い女の子と間違われた男の子の高校生物語。」


https://kakuyomu.jp/works/16817330666571240432


宜しくお願いします。



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青空。 事故で大切な家族を亡くし、親戚には慰謝料を全て取られ、俺を心配して近付いて来たと思った隣の子には財産目当てだと知った俺の顛末。 @kana_01

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