めぐる、めぐる

壱単位

めぐる、めぐる


 桃色の花の咲く、あの、樹。

 覚えておいて。

 いつか、いつか。


 轟音とともに視野の半分が焼灼され、その熱量と圧縮された大気の衝撃により女の右腕が切断された。

 その腕が地に転がる前に女は跳んでいる。

 次の瞬間には男の背後に立ち、眩しく発光する左の手刀を首筋に叩きつける。が、切断にはいたらない。男が身体を僅かに逸らし、手刀はその肩の肉を抉り取ったにすぎなかった。

 それでも女の左腕が男のそれを掴み、捻り上げながら宙に飛ばす。手印を複雑に組み合わせ、吸引音とともに生成された空気の刃を上に射出する。刃は、男の脊髄を破砕した。すさまじい速度で錐揉みをしながら男は落下し、地に打ち付けられた。

 女の膝が男の胸にめり込む。肋骨が砕ける音。

 刹那、男がわずかに魔法の呪禁を呟くと、女の身体が爆発的に燃焼した。彼女を包む空気の温度は瞬時に千度上昇し、身を捩って逃れようとする彼女のうすい肉を灼いた。


 村はずれの、小川。

 小魚がぎんいろに踊る、あの、小川。

 もういちど、笹の舟をつくって流しにいこう。


 女は残った左腕の機能をほとんど喪失したが、魔法が残っていた。みずからの肉を贄に、その重量を瞬時に三十倍に増加させ、男を潰した。

 潰しながら、灼けた左腕を、男の首に巻き付ける。肘を頭にかけ、持ち上げる。

 男は苦悶しながら右腕を女の首に廻した。


 ながいお役目になるけど。

 おたがいの国を、まもるんだ。

 お役目を、終えたら。


 あの、樹の、下で。


 ふたつの遺骸はくちづけをしたまま、やがて野に還り、近くに花を咲かせた。


 桃色の、花だった。



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