其は助兵衛の申し子

 風、風よ。

 全てを持ち上げ、全てを吹き飛ばす風よ。

 この俺に、力をくれ。


 ヤツの元へ向かう、力を———っ!



「うおおおおおおおっ!!!!」


 上昇突風に乗り、瓦礫に塗れた洞窟内から、蒼き空広がる地上へと飛び立つ。


 同時に、瓦礫の上に乗った、ヤツの本当の姿が見えてくる。


 氷より出でし透明な膜と、紅く煌めく鮮血を纏う、新たな龍の落とし子。

 ルイレの肉の中より生まれし、新たな子。

 しかしてソレが、と言うのならば……!!



「喰ぅぅぅぅらええええええええええっっっっ!!!!」


 ルイレ転生体の背後。

 上空高くに飛び上がった瞬間、風魔術の効力が切れ、意識や身体全てが歪み、捩れ、落ちてゆく中———。


 俺は再度杖を掲げ、突き立てる用意をする。



『な———何いっ?! まだそんな魔力量が……!!』



「やっぱ———お前、話聞いてねえな!

 つったろう、この脳みそスイカ野郎っっっ!!!!」


『その蔑称はなんだあああああああ、ああああうああああああっ!!!!!!』


 その皮膚に、杖を刺したが最後。

 今度こそ、確実に。その魂の芯の先まで、凍りつかせて閉じ込めるっ!


「どーだ見たか、この俺の欲求全開パワーッ!

 お前にはついぞ出せやしなかった、この俺の力の真髄だっ!!!!」






 

 その魂からの叫びを、そこより遥か下から聞いていたサナとジェールズは、決め台詞のあまりのダサさに絶句していたと言う。

 ……後から聞いた話だ。






「うおおおおおおっ! 待ってろフォルス! 今迎えに行ってやるっっ!!!!」


 風の通り道。俺の魔術で具現化される、風の通り道を想像し、その通りに吹いた風に乗り、必死に降下する。

 可能な限り手を伸ばして。……この俺にも、こんな主人公っぽいことができたのか。



「うおおおおおっ、おっぱい!……もいいけど、俺はお前と一緒にいたい! 今までの言葉全て本当なんだ、だから手を握ってくれっ!」


 その青みがかった透明な液体。もはや俺の望んだ『女』の形をもしていないソレに、俺は手を伸ばす。



 ———すると。その手を握り返してくれた手は、紛れもなく人間の温かさを放っていた。

 戻ったのだ。俺と初めて会った時の、温かさに。



「おぉ……お前……生きてるのか!」

『………………』


 生きては……いる。手を握り返してはくれたが、やはりその反応はどこか鈍いものだった。



「……まあ、そうだよな……


 帰るか、俺たちの———いるべき場所へ」




◆◇◆◇◆◇◆◇





 俺は、虚構を見つめていた。

 俺の見つめていた女の姿は、誰がどう言おうと偽物のものだった。

 俺はずっと、アイツに嘘をつかれていた。


 ……でも、でもいいんだ。

 もう俺の想いは、本物へと変わったから。 

『思ったことを本音で言ってしまう呪い』がそう言うのならば、俺の想いはいよいよ本当にそうだったんだ。


 ……だから。彼女が起きたら、俺は『付き合ってください』と言おうと思う。

 もう例の呪いは解けたそうだけど、でも俺の伝える想いは、きっと本物だ。


 ……そのために、俺は今コレを書いているのだから。





「兄貴ぃ、また謎ポエム的何かを描いてるんですか?」

「もうそれやめた方がいいわよ、後から読み返すと多分痛くて悶え死ぬだろうから」



 ———ダンジョン内の話より、数日後。




「……いいんだよ。コレがあることで、俺はこの想いが本音だと言うことを再確認できる。


 嘘偽られた想いなんかじゃない、容姿とか、おっぱいとか……そんなものは関係ない、純粋な俺自身の、本音だって———再確認するために。


 後はが起きてからのお楽しみだ。俺の本音の想いが伝わるのか、それとも儚く折れるのか。……それは誰にも分かんねえけど、俺はこの想いを胸に———だなあっ!」


 


 彼女が。


 本当に、目を覚ました。

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もしも願いが叶うなら〜思ったことが口に出るので、とりあえず女の子のおっぱいを揉んでみせることにしたっっっっ!!!!〜 月影 弧夜見 @bananasm3444

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