第42話 ホシクズの未来を求めて ~The day of departure~

「挨拶は済んだ」

「はい。もう大丈夫です」


 箱船号の操縦室に入るとミラさんが声を掛けくれた。

 隣の席に座りながら、返事をする。


 生体端末を箱船号の制御システムに接続し、航行制御システムを起動する。

 システムに接続していれば、船内のどこにいても操船は可能だ。

 

 ただし、トラブルが多い出港は、操縦席で操船するのが規則だ。

 もしシステムに異常が発生してマニュアル操作をする場合は操縦席にいる必要がある。


「せっかくだから、月を離脱するまでカグヤが操船しなさい」

「シミュレーションはしましたけど、実機は初めて出るよ」

「大丈夫ですよ。貴方なら」


 脳内イメージに、「操船権限が委譲されました」と表示が出る。

 仕方ないなと思いながら、出港の確認をする。


 動力部異常なし。

 気密隔壁閉鎖完了。

 センサー類も感度良好。

 ドック内の退避も完了。


「出港準備、完了しました」


 報告をしたところで、鼓動が高鳴るのを感じた。

 いよいよ本当に月を離れる。

 期待と不安が入り混じった感情が胸に圧し掛かる。


「カグヤ、最後に聞きます」


 ミラさんが呼びかけてくる。


「今なら月に留まることを選択できる。地球での生活は、人間の汚いところを沢山見ることになります。他人の血も、自分の血も流れる。それでも地球に行くことを選びますか」


 ミラさんの顔を見つめる。

 私を思いやってくれる優しい表情だ。

 だけど、それに甘えていてはいけない。


「行きます。私が教わったのは、現実を生き抜く力です。それを証明します。月詠オキナが、月の人達が繋いだ未来が、ずっと先の未来まで繋がっていることを」


 ミラさんがゆっくり、小さく頷く。

 そして大きく息を吸ったと思ったら、遠くまで轟かせるような大声を出した。


「皆様、お聞きになった通りです」


 操縦室に膨大な数な空間モニターが出現した。

 四方を空間モニターに囲こまれたカグヤは、突然の出来事に意表を突かれ、目を見開く。


 混乱するカグヤの様子に気にかけることなく、ミラは口上を続ける。


の者、月詠つくよみカグヤは操縦者オペレーターの使命を果たす心得が十分ありと判断致します。よって月の賢者、月詠つくよみオキナ及びミラ・サンフィールド、両名りょうめいの名をもって、の者を操縦者オペレーター評議会の末席に推薦すいせん致します。評議会にご出席の皆様の承認を頂きたいと存じ上げます。異議のある方は声をお上げください。賛成の方は拍手もってお迎えください」


 拍手の音が操縦席を満たした。

 この人達が地球の操縦者オペレーター評議会のメンバー。


 それが空間モニターに写っているということは、地球との通信に成功した。

 思わずミラさんの方を見ると、満面の笑みを浮かべていた。


「カグヤ、皆様に一言述べて」

「あ、えっと。よ、よろしくお願いします」


 型通りの言葉を述べるしかなかった。

 こんなサプライズ、聞いてないよ。


 恨めしい視線をミラさんに送るが、本人は「ふふふ」と笑ったままだ。

 そして笑顔のまま、高らかに言い放った。


「さあ、地球へ行こう。ホシクズの未来を求めて」

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ホシクズの希望を求めて~旅路~ 宮島 久志 @MUKONOSOU

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