The day of departure

第41話 見送る者 ~The day of departure~

 オキナが眠るカプセルに手を添える。


 採掘場の閉鎖区域に鎮座する巨石の前。

 月の賢人が自らの足でたどり着いた最後の場所に棺を置くことにした。


 おばあ様の隣に置くことも考えたが、どのカプセルにおばあ様がいるのか、わからなかった。

 カプセルには「月の賢人、ここに眠る」と墓碑銘ぼひめいを刻んだ鉄板を張り付けた。

 

 今日、地球に向けて出発する。

 出発に際し、採掘基地を可能な限り真空にすることした。


 もしも、戻ってくることがあれば再び稼働できるようにするためだ。

 現状、長期保存を実現するには真空にするのが一番良い。

 この閉鎖区画も私が退出したら、空気の排出が始まる。

 

 カプセルから手を放し、出入り口に向かって歩き出す。


 箱船号に修理は完了した。

 物資の積み込みもできた。

 保管庫にあった未使用のホシクズ鉱石も積み込んだ。


 これ以上、月に留まる理由はない。


 閉鎖区域を出る。

 振り返って区域を眺める。

 そして胸を張って言葉を述べる。


「いってきます」


 出入り口の扉に手をかけ、ゆっくりと閉じていく。

 大きな音を立てて扉が閉まる。

 空調システムが作動し、空気の排出が始まったこと確認すると、ドックに向かって歩き出した。


 ドックの到着するとピーターが待ち構えていた。


「お見送り、お見送り」


 ピョン、ピョン跳ねながら、ここに来た理由を説明してくれる。

 その姿にたまれない思いを抱く。


「やっぱり一緒に地球に行こう。一人になっちゃうよ」

「ピーター、残る。この基地、守る。ピーターの役目」


 提案にピーターは首を振って答える。

 説得にミラさんも協力してくれたが、ピーターは月への残留を譲らなかった。


「お迎え、お見送り、ずっと繰り返し。見送った人、約束、またお迎えする」

「…ピーター」

「プラトン採掘基地、月面、最初の基地。皆の故郷」


 ピーターは抱きしめ、全力で熱量エネルギーを供給する。

 少しでも長くピーターが動いていられるように。

 私でない誰かが、この基地に来ても、出迎えができるように。


「無駄遣いしたらだめだよ」

「了解」

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