第12話 守護者
カインとシノがグリートと対峙する。
「て、天魔だ!まさか第2階層に居るなんて」
シノが叫ぶ。
”天魔”は人型の
「て、てめえよくも俺の仲間を」
2人の間から怒り狂った男が飛び出し、グリートの胸に槍を突き刺した。しかし、そこから血が溢れることはなかった。グリートは体を変形させ、丸く穴を開けることで槍の攻撃を避けていた。
「クソっ」
男は次々に槍で攻撃を繰り出すが、その度に体を変形させて攻撃を避けるので全くダメージが入らない。グリートは大きなため息をつく。
「ナンセンスだよその攻撃。わからねェの?」
グリートは長い脚で男を蹴飛ばす。男は軽く吹っ飛ぶと大木にぶつかり吐血する。グリートは手を男の方に向けると、再び巨大な蝶が複数体飛び出し、倒れている男に群がる。
「や、やめてくれ...誰かッうわぁぁぁぁぁ」
蝶で覆われていたので彼の姿は見ることができなかった。しかし、ほどなくして彼の叫び声は聞こえなくなり、赤黒い染みが地面に広がっていのが見えた。
「次は誰が相手をしてくれんの?」
男は残ったカインたちに向き直ると、鋭い歯を見せつけて口角を釣り上げる。
「その性格の悪そうな女からにしようかァ」
グリートはそう言うと腕を動かして蝶の大群を女に向かわせる。
「ミリヤ!私を守るのよ」
「...かしこまりましたお嬢様」
女が甲高い声で叫ぶと、ミリヤが軽い身のこなしで彼女の前に立つ。
ミリヤは目にも留まらぬ速さで拳を繰り出し、迫ってくる蝶の群れを殴り落とす。地面に落ちた蝶は灰のようにボロボロに崩れ落ちていく。最後の一匹を片付け終えると、彼女はグリートに向かって拳を向けた。彼はニンマリと笑うと手を叩いて声をあげる。
「お前、異端者のくせにやるじゃねェかァ」
手を挙げると、ミリヤの背後に巨大な蝶の群れが現れる。
「しまった!」
ミリヤが振り向くと同時に蝶が彼女に降り注ぐ。その寸前でカインが鎌蜂の時と同じく、”炎天”で炎の壁を作り出し、蝶たちの攻撃を防ぐ。橙色の光が辺りを明るく照らす。
「か、カイン...」
「俺たちも一緒に戦う」
カインはそう言うと、力強く地面を蹴りグリートに急接近する。炎を纏った刀で彼の体を真っ二つに切る。しかし、彼の体は無数の蝶に変化して辺りに飛び回ると、また一箇所で再び人の体の形になった。
「ナンセンスだって。オレに攻撃は当たらェんだよ」
心底うんざりした顔で彼は大声で言う。一匹の蝶がカインの腕に噛み付く。彼はそれを剥がそうとして強く引っ張るが一向に取れる気配がない。歯が余計に腕に食い込み、鈍い呻き声をあげる。
「腕かして」
ミリヤは彼の腕を引っ張ると、そこに噛み付いている蝶に拳を当てた。すると、蝶はたちまちその体を崩しはじめ、ボロボロと地面に落ちて行った。彼女は久しぶりに笑顔を見せた。
「これが私の力。触れたものを崩壊させるんだ」
「助かった」
辺りに青い光と乾いた発砲音が響く。見ると、シノがグリートを狙撃しているようだ。しかし、グリートはやはり体を蝶に変えてひらりひらりと攻撃を躱している。彼はシノの攻撃が止むと、一匹の光っている蝶を中心にして他の蝶を集め、再び体を構築しはじめた。シノは走ってカインとシノのもとに来る。
「2人とも、あの蝶の中に光っている蝶が一匹いるの見えた?」
「ああ」
「あの蝶がなんなの?」
3人はグリートに聞こえないように小声で喋る。
「ボク、その光っている蝶が弱点なんじゃないかなって思うんだ」
シノ曰く、光っている蝶を狙って撃つと、他の蝶を複数体犠牲にしてまでその蝶を守っていたらしい。だからこそ、その光る蝶には撃たれてはいけない理由があるのではないかと考えたそうだ。
「あくまで憶測に過ぎないけど...」
「試してみる価値はある」
カインはそう言うと、グリートを見据えるのだった。
異端のアヴァロン 物部ネロ @KIEN_MN
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