第11話 再会
ー第2階層ー
2人は日も暮れてきたので、歩くのをやめて野営の準備をしていた。シノはいつもよりもやけに静かな森に違和感を感じたが、先ほどと同じく気のせいであると自分に言い聞かせた。
すると、遠くの方から複数人がこちらの方へ歩いてくる音が聞こえてきた。耳を澄ますと、耳に付く甲高い女の声と、ゲラゲラと笑う複数の男の声だった。2人は警戒した面持ちで、近づいてくる足音の方を見つめていた。
「あれ?人じゃん」
「なんだ人かぁ、びっくりした」
木々の奥から現れた高そうなドレスを身につけている女は猫撫で声でそう言うと、隣を歩いていた男の腕に抱きついた。同じく上等な服を身につけていた男は「大丈夫だよ」と鼻につく声で彼女を宥める。後ろにいたガラの悪い男たちがシノに近づき、声をかける。
「お嬢ちゃん可愛いねぇ。オレたちとこれから楽しいことしねえ?」
「おいやめろよ、はははは」
「ひっ」
シノは男2人に体全体を舐めるように見られ、その視線の気持ち悪さから顔を青くする。そんなシノを庇うようにカインが前に立つと、男たちは「ヒューかっこいいねえ僕」と野次を飛ばしてくるのだった。
カインは冷めて目で彼らを観察していると、離れたところにもう1人立っていることに気がついた。そしてその女には見覚えがあった。アッシュピンク色の長い髪、特徴的な背の高さ。
「ミリヤか...?」
カインが声をかけると、彼女は俯いていた顔をゆっくりと前に向けた。やはり、ミリヤだった。しかしその瞳は虚ろであり、この前会った時の明るさを微塵も感じなかった。顔や体には傷がついており、彼がその傷を見ていることに気がついた彼女は、それを手で隠した。
「何?あんた達こいつの知り合いなわけ?」
「...ただ少し話したことがあるだけだ」
男の腕に抱きついていた女が途端に怒りに満ちた顔になり、バッとミリヤの方を振り返るとその顔に平手打ちした。
「何勝手に人と話してんのよっ!家畜の分際で男に媚び売りやがって」
彼女はミリヤを罵倒すると、もう一度叩こうと手を高く振り上げる。ミリヤはこれからくる痛みに耐えるために硬く目を瞑った。しかし、その痛みはいくら待っても来なかった。
「何よあんた、離しなさいよ!」
カインは女の振り上げた手首を固く掴み上げていた。彼の覇気のない目には普段と異なり怒気が孕んでいた。ヒステリックな声をあげる女を睨みつけると、彼女は少したじろいだ。
「私はこいつの契約主よ。何をしたっていいのよ」
”契約”とは奴隷とその主人の間で結ばれるものである。奴隷の体には契約刻印がされ、正式に手続きをするか、主人が死ぬまでその契約は無効にならない。奴隷は死ぬまで主人の命令を聞き、主人に危害を加えることはできないのだ。
「だからと言って見過ごせるか」
女の顔は怒りでみるみるうちに赤くなっていく。カインの手を振り払うと、後ろで控えていたガラの悪い男につんざくような声で命令した。
「こいつらを潰して!何をしたっていい!」
「ぐへへわかったぜお嬢様」
「俺たちと遊ぼうぜ、おちびさん」
男たちは
ふと、光り輝く巨大な蝶がひらひらと舞い降りてきた。両者の間でくるくると旋回すると、さらに沢山の蝶が現れて大きな渦を作り出す。
「なっ何?気持ち悪い」
女が叫ぶ同時に、その渦の中から背の高い男が現れた。
「はァ、醜い醜い。同じ種族で争いなんてナンセンスじゃねェ?」
猫背の男は槍を持つ男に手を向ける。するとその手から巨大な蝶が現れてその男の顔に目にも止まらぬ速さで飛びついた。
「もご...と、取れないッ」
男は必死に蝶を顔から引き剥がそうと必死に顔を掻きむしる。しかし、その蝶はぴったりと顔に張り付いて取れる気配はない。突然、顔を掻きむしっていた男は断末魔をあげる。
「おい、冗談はよせ...」
男の片割れがそう声をかけた瞬間、男は顔から沢山の血を吹き出した。
「うわぁぁぁぁ!?」
「ヒィッ痛い...助けてくれ!顔が喰われてるッ痛...ゴボ...」
男は血を吹き出しながら地面に倒れて転がりまわる。しかし、暫くすると体を痙攣させるだけになってしまった。女の叫び声が辺りに響く。蝶がの群れひらひらと飛んできて、男の死体に群がる。
長身の男はバキボキと音を鳴らしながら猫背を伸ばしていくと、それと同時にその頭には光のツノが生える。カインとシノは男に向かって銀の弾丸を向ける。
「オレの名はグリート。この階層の守護者として、てめェら異端者どもを断罪する」
長い前髪からわずかに覗く黄金色の眼は妖しく輝いていた。
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