第10話 監視

ー第2階層ー

カインとシノは巨大なカマキリと対峙していた。そこらの木よりも大きなカマキリは列車のブレーキ音のような鳴き声をあげると、彼らに向かって三日月のような鎌を振り下ろす。


2人はその攻撃を左右に飛び退いて身軽にわす。鎌は彼らの後ろに生えていた木に当たるとその木はスパっと切れてしまった。木は倒れて辺りに砂埃が舞う。


シノが巨大カマキリが砂埃で彼らを見失っている間位に、銀の弾丸シルバーバレットである”天雷”で、カマキリの足を打ち抜く。視界が悪くても彼の射撃の腕はとても優れており、的確に足に命中させた。シノは射撃するとその場から離れてまた違う場所で構えて射撃する。


しばらくすると、何度も銃弾を受けたカマキリの足が一本吹き飛び、カマキリがバランスを崩して地面に倒れ込んだ。好機である。


蟲の頭の側にカインが”炎天”を構えて立つと、カマキリの頭部と胸部の繋ぎ目にその刃を振り下ろした。頭が落ちた後も蟲はしばらくもがいていたが、やがて動くのをやめた。


「蟲を倒すのも慣れてきたね」

「そうだな。大体の蟲は燃やせば大丈夫だし、でかいやつは頭さえ落とせれば倒せるからな」


2人は木陰に腰をかけて水を飲む。中心部に進めば進むほど攻撃的な蟲の数は増え、戦闘する機会が増えていた。しかし、2人はその度重なる戦闘で蟲を倒すコツを習得したのだった。この巨大カマキリとの戦闘も今回が初めてではなかった。


突然シノが立ち上がり、怪訝な顔で辺りをキョロキョロと見回した。


「どうした?」

「なんだか、誰かに見られていた気がするんだけど...」


カインも立ち上がり辺りを見渡したが、花のたくさん付いた木々が並んでいるだけであり、特段何か他の生物の気配はなかった。お互いに目が合うと、シノは申し訳さそうに眉を下げて謝った。


「ごめん、気のせいだったね」


彼はそう言うと、羅針盤タクトを開いて地図を確認した。彼らはすでに門のある中心部の近くまで来ていた。明日の夕方には基地モーテルに到着できるだろう。


「後少し進む予定だったが歩けるか?」

「もちろん!もう行こっか」


2人は荷物を背負い、歩き始めた。そんな彼らを見ている存在が居るとは気づかずに。


辺りに飛んでいた蝶が一ヶ所に集まり、人型を作り出した。次第にその町の群れはぐずりと溶けて互いに融合し合い、そしてやがて1人の男性になった。その頭にはゆらゆらと炎のようにゆらめく光のツノが2本生えていた。


「はァ...また異端者かよ。次から次へと湧いてくんじゃん」


彼は大きなため息をつと、丸めていた背中をぼきぼきと骨を鳴らしながら伸ばした。身長は非常に高く、2m近くはあるだろう。気だるそうに長い紫色の前髪をかき上げる。その瞳の瞳孔は、まるで山羊のように水平方向に長かった。


「でも、創造主様の命令は守らねェとな。この楽園の守護者として」


骨ばった手を前に出すとその手から光り輝く蝶が一匹飛び出した。蝶は天高く飛び上がり、空の上でくるくると旋回する。


「近くにいるのはさっきの2人と...あと、もう複数人いるなァ?若い女が2人と男が3人。まとめてやっちまうか」


男はギザギザの鋭い歯を見せて、口を釣り上げるのだった。

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