第9話 ペアのイヤリング

「フォン様。このイヤリング。遺物としての使い方が分かりました!」

「おお! 本当か!? どんな効果があるのだ? 教えてくれ!」


 くぅー!

 なんて素敵な方なのかしら。

 教えてくれ! だなんて。

 今までは、聞いてください、ってこっちが頼まないと聞いてくれる人なんてあまりいなかったのに。


「それでは! 早速説明させていただきます! あ、その前にこのイヤリングをどちらの耳でもいいので付けてくださいね」

「イヤリングを? 二つじゃなくて片方だけか?」

「はい! 片方だけです。もう片方は私が」


 嫌がるそぶりもなくフォン様は左耳にイヤリングをつけてくれた。

 残りの片方を私の右耳に付ける。

 するななぜかフォン様は嬉しそうな顔をしている。


「同じイヤリングを分けて付けるなんて。まさかアイラから言ってくるとは思わなかったな」

「え? 何か意味があったんですか?」

「はぁ……そりゃそうか……まぁいい。それで? どうするんだ?」

「はい! この魔術をイヤリングに使います!!」


 私は開発した魔術を自分の付けているイヤリングへとかける。

 これ自体は私が以前開発した誰かが触れるとあらかじめ入れておいた音声が流れるという、伝言の魔法陣の応用。

 伝言の魔法陣も便利だと思うんだけど、評判は全然ダメだったなぁ。

 今回の魔術は、音声を入れたら即座に流れるという一見無意味に見える魔術。

 だけど、このイヤリングがあればなかなか凄いことができちゃう!


「あーアイラです。聞こえますか?」

『あーアイラです。聞こえますか?』

「わ!? 耳元からアイラの声が聞こえて来たぞ?」

『わ!? 耳元からアイラの声が聞こえて来たぞ?』


 成功!

 ちゃんと私の声だけじゃなくて、フォン様の声も聞こえてきた。

 これで離れていても話ができちゃうってわけ。

 問題は今のままだとイヤリングがないとできないのよねぇ。


「アイラ! これが君の言った異物の使い方なのかい!?」

「そうなんですよ! 凄いでしょ? 凄いですよね? 凄すぎる! なんと遠隔で会話ができちゃうんです。これってフォン様にとってはかなり優良な使い道があるのでは?」

「その場にいない者と逐一連絡が取れるなんてことになったら、今までの政治の常識が変わる話だな。ああ。ダメか。僕には魔力がないのだから、この遺物を使おうにも使えないんだ。残念だな」


 心底残念そうな顔をするフォン様に、私は陣が描かれた小さな板を渡す。

 不思議そうにいたと私の顔を見比べるフォン様に、私は自信満々な笑みを浮かべ、説明を続ける。


「いいですか? 研究者たる者、きちんと対策も考慮しなければいけません。この場合の対策とは何か? ずばり、フォン様の魔力欠乏症ですね。おっしゃる通りフォン様だけでは残念ながら使うことができません。周りにその魔術が使える人物が常にいるということも多くはないでしょう。そこで! この陣をご用意しました!」

「めちゃくちゃ早口で話してるけど、よく舌を噛まないな?」

「茶々入れないでください。さぁ、フォン様。その板を割っちゃってください。そう。パキッと」

「こうか?」


 フォン様が板を割ると、描かれていた陣が発動する。

 発動するように私が描いておいたんだから、発動してもらわないと困るわけだけど。

 発動する魔術は先ほど私が使ったものと一緒。

 これでイヤリング同士で会話ができるようになるというわけ。


「なるほどなぁ。アイラは遺物のことしか脳がないと思っていたんだが、認識を改めないとな」

「すいません。それってどういう意味です?」

「いや、良い意味だよ」

「悪い意味だったらもっと怒りますよ!?」


 冗談はさておき、全部うまく行ったわけだし、片方はフォン様が付けるとして、もう片方のイヤリングを誰に付けてもらうか聞かないとね。


「ということで、イヤリングを付ける相手を決めてくださいね?」

「え? どういう意味?」

「どういう意味もなにも、もう片方のイヤリングを付ける相手を誰にするかってことですよ。その方が魔術が使えるなら、魔術を教えないといけませんし、そうじゃないならフォン様と同じように板を作らないといけませんし」

「いやいやいや。アイラ以外に付けさせられるわけないだろう」


 フォン様は困ったような面白がっているような顔をしている。

 どういうことだろう。

 そういえば、イヤリング渡した時になんか言ってたような。


「そういえばフォン様。同じイヤリングを分けて付けるってどんな意味があるんです?」

「ん? んー。知りたい?」

「教えてください」

「えーとねぇ。まぁ、今の状況で言うと、僕がアイラを守る、っていう証だね」

「え!?」


 フォン様が私を守る?

 その証?

 つまり、他の人が付けたら、その方とフォン様がそういう関係だって周りに思われちゃうってこと?


「ということで、アイラ以外の誰かとペアのイヤリングを付けるなんてありえないんじゃないかなぁ。少なくとも僕はしたくないけれど」

「わ……分かりました。じゃあ、あの……その……私も外しておきますね?」


 右手はイヤリングに届く間も無くフォン様に阻まれた。


「むしろアイラは付けていて然るべきでしょう? だって、僕のお姫様なんだから」

「そ……そうでしたっけね……あはははは」


 右手を掴まれたまま、壁を背にした私にフォン様がにこやかな笑みを顔に浮かべたまま迫ってくる。

 近い近い近い!

 息が当たってる!


「そういうことだから、これからはアイラは肌身離さずそのイヤリングを身に付けておくようにね」

「わ、分かりました」


 拘束から解かれた私はそういうのがやっとだった。

 何がと言われると分からないけれど、フォン様って色々ずるいと思う……


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