第4話 交渉 ~ケモ耳奴隷少女と、リボ払いの拒否~

※この作品には過激な表現を含みます! ご注意下さい。


「僕は・・・。」

 

 金髪の女商人“エレーナ”は、代金を、割賦かっぷ払いで支払うことを提案してきた。

 若者が毎月、定期的に商会に支払う金額は、法外な値段だ。

 

 ただでさえ追加料金が発生して、高額な代金が、利息で数倍に膨れ上がっている。

 


 若者は、権利書を全て、今晩中に回収したい。

 

 そのためには、彼女の言い値で、買うのが確実だ。

 全額を即金で支払い、利子をとられないようにしたい。


 しかし…。


 とても、親からもらっている、お小遣いでは、払いきれない。

 形ばかりだが、一応している仕事の給金は、微々たる金額だ。


 借用書が、親に行くのは困る。

 

 なんとかして、払わないと。

 なんとかして…。

 

 視界が歪む。

 過呼吸になりそうだ。


「どうされました?大丈夫ですか? 落ち着いてください。」

 

 金髪の女商人は怪訝な顔をして、立ち上がった。


「坊や! 少し、深呼吸して!」

 

 女商人が、本気で、こちらを心配している。


 彼女の服の、開いた胸元が気になる。


 女商人は、珍しく慌てた様子で、廊下に控えていた部下に、冷たい水を持ってくるよう指示した。


 “エレーナ”は、若者は、背中をさすり、優しい口調で、落ち着くよう言ってくる。

 女商人は、若者を横にして、楽な姿勢をとらそうと、上着を脱いで床に敷いた。

 

「あんた、何か持病が、あるのかい?」


 彼女は、無防備な状態だ。



 机ノ引キ出シニ、欲シイ書類ガ、全部入ッテルミタイダヨ?


 邪魔ナ、護衛ハ、シバラク、帰ッテコナイミタイ。

 奪ッテ、シマオウカ?

 相手ハ、丸腰カナ?


 コノ自惚うぬぼレタ女ヲ、好キナヨウニ、シテイインダヨ?

 大丈夫、“ワタシ”ガ、助ケテ、アゲルカラ。 

 


 視界が、回るように歪む中で、不意に頭の中に、声が響いたようだ。

 “ナニカ”が、感情的な行動に走れと、囁き続ける。

 これが、僕の本能、獣のような本性なのだろうか?

 

 いいや、違う。

 僕は、人間だ。


 貴族として、紳士としての誇りがある。

 理性でこらえる。

  

 今、僕は、正気ではないのかもしれない。

 現状が把握できたなら、深呼吸しながら、目を閉じ少し休もう。

 

 横になった若者は、胸の前で、腕を組むと、荒い呼吸を鎮めようとした。




 若者は、ガタイのいい男が、差し出すコップに、ゆっくり口をつけた。


 女商人の部下は、若者が部屋に入ったときは、周囲にいなかった。

 商人と示し合わせて、商談が始まってから、廊下に音もなく立っていたのだ。


 部屋を出ていく彼が、腰に差す剣に、若者は目をやる。

 使い込まれた印象を受ける。

 これは、家に、帰れないパターンだろうか?




 若者は、値切った。

 なんとかして、値切った。


 若者は、錯乱したように、彼の手札を全部見せた。


 別の奴隷を買うつもりだった金が、今ならまだ、あるんです!

 前金で、今持っている金を、全部渡しますから!

 銀行のお金を引き出して、今週中に全額をお支払いしますから、少しでも安くして下さい!と、泣きついた。

  

 叫んで、頭がくらくらする。


 短い金髪に、細い目が特徴的な女商人“エレーナ”が、『しまった、やりすぎた』と申し訳なさそうな顔をしている。

 

「…では、最終的に、この金額で、よろしかった、でしょうか?」


 女商人は、うついて、目を伏せつつ、そっと契約書を出すと、若者を様子を恐る恐る伺いながら、サインを促した。

 


 ダッサ。


 “ダサ”スギル…。

 マサカ、コンナ男ヲ、選ンデシマウトハ…。

 失敗ダッタカ…。


 呆れた“ため息”が、頭に響いた気がする。


 はて?

 若者は、目の前の金髪糸目の女に目をやる。

 最初に会った時、この女商人の印象は、冷酷無情な印象だった。


 貴族のボンボンに、“病気”を発症させかけたと勘違いし、負い目を感じているとしても、こんな殊勝な態度を示す人間だったか?


 もしかして、わざと、表情を作っているのか?


 さも、『若者を、傷つけるつもりは、なかったんです。お詫びに、精一杯の値引きを、させて頂きました。』という風に。


 この女は、『搾り取れるだけ、搾り取る』が信条の、“高利貸し”や、“代官”共と、同じ匂いがする。


 借金や税の徴収を、平民や農民たちに行う、彼らの方針は、“生かさず、殺さず”、だった。


 若者は、直感的に、奴らと同じ危険な雰囲気を、女商人から感じていた。

 


 もっと、強気にでよう。

 金を出す方が、立場が上なのだ。

 


 迷っていた若者は、やがて意を決したように、羽ペンを手に取る。

 

 狡猾な女商人の目が、一瞬輝く。

 

 若者も、心の中で、ほくそ笑む。

 馬鹿め。勝利を確信した時が、もっとも油断している時なのだっ!

 

 油断ハ、死ヲ招クゾ? 

 


 若者は、女商人に、新しい値段を、書いて示した。


「いいえ、この金額でお願いします。

 そうでなければ、サインしません。


 前回契約した金額のみを、支払い、僕は帰ります。

 その場合、今回の件は、全て両親に、話します。

 今後、貴方の商会との取引は、見送らせていただきます。」

 

 さあ、彼女は、どう出る?

 恫喝や暴力といった、実力行使にでるだろうか?



「ふふっ…、わはははっ! くくっ、負けたよ。坊や。…フフフッ。はははっ!」



「少し、坊やを、見くびっていた、みたいだね。このやり取り、必要だったかい?」


 金髪の女商人“エレーナ”は、ひとしきり笑うと、目じりの涙を、ぬぐいながら上機嫌で言った。


「取引成立だ。」

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【正気度】奴隷娼館から身請けした、狐耳のじゃロリ少女を信じた俺は、いつのまにか邪神の眷属認定されていた。彼女が調教と拷問で、とっくに発狂していたなんて、気づかなかったんです!信じてくれよ!【残りゼロ】 読んで頂けたら、うれしいです! @KEROKERORI

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