第3話 暴利 ~ケモ耳奴隷少女と、“幸せのチャンス”~

※この作品には過激な表現を含みます! ご注意下さい。



『こんばんは、貴族の坊や。また来たのかい?』



 商会の個室で、若者は、商人と面会していた。

 短い金髪に、細い目が特徴的な女商人“エレーナ”が低い声で歓迎する。

 真夜中の商会にも、来客が多いようで、ランタンの明かりが置かれ光を放っている。


「こんばんは、“エレーナ”さん。その節は、どうも、ありがとうございました。」


 若者は、上品に頭を下げて挨拶し、席に座った。

 “エレーナ”は商売用の笑顔をつくると、若者の前の机の椅子に腰掛けた。


「坊ちゃまは、非常に、良い買い物をされましたね。

 また、来てくださって、とても嬉しいです。

 いつでも、どんな時でも、大歓迎ですわ。

 さて今夜は、また、新しい“ペット”を、買って頂けるのかしら?」


 “エレーナ”が微笑みながら、若者に語りかける。

 女商人は、身体の線が浮き出る細い服を着て、胸元を少し開けている。


 少し、饒舌なのは、酒が入っているからだろうか。

 右手の小指が汚れているのは、遅くまで仕事をしていたからだろう。


「まずは、先日の代金の支払いを、させてください。」


 若者は、懐から高価な紙に書かれた借用書を出して、目の前の机の上に置いた。

 女商人の目が、待ってましたとばかりに、ギラつく。


「この金額で、よろしかったですよね。」


 若者は、金貨の袋を、紙の上にのせる。

 “エレーナ”は微笑みを保ちながら、狡猾な光を宿した目を若者に向けた。


「申し訳ありません。」


 “エレーナ”は、準備していたであろう新しい紙を、若者の前に広げた。


「えっ!?」


 ただでさえ高価な金額が、数倍以上に、なっている!


 若者は驚きの目で、目の前の商人と、紙に書かれた額面を、交互に見た。

 金額の桁を、間違えているわけではないらしい。


「追加で、ご依頼された内容に加え、手数料と、“商品”を“倉庫”に約1か月保管するのに必要だった維持費を合わせると、こちらの金額になりました。」


 女商人はさらに、畳みかける。


「この“特別な商品”は、坊ちゃまに、大きな幸運をもたらすことでしょう。ただし、ご存じの通り、屋外で飼育するには、“特別な”権利が必要です。」


「さらに、鎖や枷を外したいとの希望を叶えるには、市民権の購入が必要で、かなりの金額を必要としました。」


「通常は、権利の申請には数か月かかるところ、わが商会では、2週間という大幅に短い期間で手続きができました。この際に、追加の手数料が発生したのです。」


 高い。これは、あまりに高すぎる。


 ジッと、金額を眺め続ける。

 若者は、こんな高価な買い物を、今まで一人でしたことが、なかった。

 若者は、衝撃のあまり、頭がフラッとした。


 これは、まずい状況だ。


 若者は軽く、深呼吸した。



 この紙面の金額は、本当に妥当な価格なのだろうか?


 眼前に置かれた高価な紙に書かれた金額や、項目、算定の理由に目を凝らす。


 この紙に書かれた金額について、金を支払うことに同意して、契約書にサインするまでは、ただのインクの染みでしかない。


 そこまでの価値が、あの“少女”には、あるのか?


 いったん出直して、両親か、爺やに相談すべきだろうか?

 洗いざらい話すのは恥ずかしい。

 相当怒られるだろうが、もうそんなことを言っている状況ではなさそうだ。


「もちろん、分割払いにも、対応しておりますわ。

 わずかな利息がつきますが、毎月たったの金貨30枚です。」


 分割払いの借用書が、新たに机上に置かれた。

 最初から、分割払いで、高額な代金を払わせるつもりだった。


「この代金で、今日ご契約頂けたなら、“商品”の権利書を、今すぐお渡ししますよ。

 明日以降ですと、次の月の維持費や治療費が、発生します。

 治療に必要な回復薬の“ポーション”が、値上がりしているのはご存じですよね?

 こんなに安い値段で買える、“幸運なチャンス”は、今だけなんです。」

 

 女商人“エレーナ”は上目遣いに、若者の様子を伺う。

 若者の視線は、開いた胸元に自然と向いてしまう。


「この美しく、従順な“ペット”は、本当に、坊ちゃまにお似合いですよ。

 幸運と愛情、そして激しい情熱を、貴方にもたらします。

 坊ちゃまの、夜の“生活”を、情熱的な“愛”で満たすでしょう。」


 女商人の斜めに切った前髪から、狡猾な青い瞳が、まっすぐ若者を見ている。

 若者の足元を見透かしたと思い、“エレーナ”は、得意げな微笑みを浮かべていた。


「わたくしたちは、ご依頼主の、どんな“秘密”も、守ります。」

「坊ちゃまは、大人の“貴族さま”です。お一人で、ご決断できますよね?」


 女商人“エレーナ”は、妖艶な微笑みを若者に向ける。


 若者は、狐耳の“少女”に出会った時のことを、思い出す。


「僕は・・・。」

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