第2話 辞別 ~ケモ耳奴隷少女と、甘いキス~

※この作品には過激な表現を含みます! ご注意下さい。



『これが終わったら、わっちを連れて、一緒に、逃げてくりゃれ?

 どこか、遠いところに、わっちを、連れて行ってくりゃれ?』


 愛を交わした少女の甘い囁きが、頭の中で反響し続ける。



「・・・んっ。

 ぬしよ、なあ、主様よっ。ちゃんと、おぬしを、お見送りさせてくりゃれ。」


 狐耳の少女は、別れのキスを交わした後、娼館の部屋を出ようとする若者の袖をひっぱり、後について、最後まで若者を見送ろうとする。


 若者は、「無理をするな。ここで良い。」と傷だらけの少女を押しとどめようとしたが、首輪を付けた少女は強情だった。


「大丈夫じゃ。少しでも、わっちは、ぬしのそばに、いたいんでありんす。

 それに、歩く練習にも、なるんじゃ。

 わっちのわがままを、聞いてくりゃれ?」


 亜麻色の髪の少女は、部屋のドアを通り過ぎても、傷だらけの足を引きずりながら懸命に、若者の後をついてくる。


 やがて、別れる時が来た。


 階段で、別れ際、こちらの顔を見る狐耳少女は、目を細めた笑顔で、大きく手を振る。

 そして、口元に片手を当て、少し大きな声を出す。


「また、わっちに会いに、来てくりゃれ!」

 

 こちらも軽く手を振って、別れを告げる。

 態度とは裏腹に、どこか、少し寂しげな表情が、胸を打つ。


 結局、最後まで言い出せなかった。

 もう、この部屋に来ることは、決してないのだと。

 若者は、心に決めていた。


 背後から、彼女の期待し信頼しきった視線が注がれ続けている事に、若者は罪悪感を感じて、少し足早になる。

 

 やはり、彼女に、しっかりと話しておくべきだろうか?

 今ならまだ、話せる。 


 若者は足を止め、さっと、彼女の方を振り返った。

 まだ、彼女は、若者に向かって、おおきく片手を振り続けていた。


 結局、若者は狐耳の少女に笑顔を向けて、数回、片手を振ると、その場を去った。



 彼女は普段とは違い、『次は、いつ来てくれるのかや?』とは、聞いてこなかった。


 なんとなく、若者の考えを、察しているのかもしれなかった。

 

 さて、次の場所に行かなくては。

 もう“準備”は、万端である。

 必ず、上手く行くはずだ。


 若者は、少女と別れたのち、少し離れた建屋まで歩く中で、物思いにふけった。

 

 夜もだいぶ更けてきた。

 治安の良い都市とはいえ、夜の繁華街は危険だ。


 こんな真夜中に身なりの良い服を着ている若者は、追いはぎの格好の標的だろう。

 気が焦る若者は、声をかけてくる客引きや呼び込みの声を無視して、足早になる。


 やがて、若者は、無事に目的地についた。


 たいまつに照らされた、大きく立派な商会の門を叩き、守衛に対して、“心づけ”として銀貨を渡し、中にいる商人に、急ぎの要件があることを伝える。

 

 相手は、真夜中にも関わらず、快く面会に応じてくれた。


 「こんばんは、貴族の坊や。また来たのかい?」

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