第4話 断腕の思い

妹のために危険な夜に薬草を取りに行き、当然獣に襲われ命の危険に陥って。

偶然にも魔女さんに助けてもらったが、自分か妹か命の選択を迫られて。

サポート人格らしく命大事にを薦めたら、左うでの切断と相成りました。


う〜ん、異世界って最低だな。


アビスの大穴でもこんな序盤で主人公は、腕切る/切らないの選択コマンドを迫られてなかったからね。ほとんど状況が同じにしても、最初にやるのではインパクトが薄いことわかってます?


いや、モノは考えようだ。目の前にいるのは文字通りの老練な魔女様で、頼もしさは白笛並みだろう。治療方法を提案してきたのも彼女であるし、仮に左肩から全損したとしても処置がよければ二次感染による命の危機は少ないはず。...はずだよね?いや本当に、医療系チートする予定はないから全然わかんないんだって!


「では切るぞ」


魔女は腰に下げたプレートの一枚を手に取り、何やら力を込め始めた。オオアカグマを追い払った時のように光が手元で瞬き、プレートは山刀に姿を変えた。ファンタジー世界らしい魔法を目の前で、しかも武器変化を見せられたというのにここまで心が躍らないシチュエーションもあるまい。それは私の腕を切り落とすための山刀なのだから。


(こ、このまま切るのか!?)


「...そうだ、死ぬほど痛いが死ぬよりはマシじゃろて。」


バァさんの目は座っている。座っているというより、少し失望している?なんで?今から治療行為するってのに、患者側に落ち度があるみたいな感情を顔に出されてると、こっちも覚悟がたくさん必要なんですけど!


それはそうだろう、悪魔め!僕は妹のために死ぬつもりだったのに、それを命可愛さに手のひら返ししたのだから!


えぇい!その悪魔に唆されたのだからだまらっしゃい!

...この魂会議、魔女さんに筒抜けになってないよね?状況判断から少年の魂の声は魔女さんにきこえてないし、俺も思考と念は分けられてるみたいだし。魔女さんが悪魔祓いの手段に開頭手術提案してきたら、体の主導権がない俺は恐怖に震えるしかない。この喧嘩状態は表になるべく出さないように、後で少年を言いくるめておこう。


そんな感じで思考を回す自己麻酔をしていると、魔女さんは左手に山刀を持ちかえ、右手に2枚目のプレートを持った。先ほどと同様の過程で形をハンマーに変化させる。ハンマー...ハンマー!?


(魔女さん魔女さん、まさかそのハンマーで刃を?)


「叩く。この老躯には薪割りの要領でやるしか方法がなくての。」


キャンプ用語でのバトニングというやり方だ。もうだめだ、某通販番組のようなギコギコ詐欺よりかは負担が少ないだろうが、それでも無理。人間の大事な腕をなんだと思っているんだ?前言撤回、このバァさんは医療のかけらも知らぬ野蛮人だ。


「...やっで、くだ、さい。ハァ、...ぼ、ぐは、大、丈夫で、す。」


少年が覚悟を示した。マジか。

まだ1日も体に馴染みがない俺が躊躇うというのに、この少年の魂はなんて強いのだろうか。


だがその覚悟に、バァさんの顔は少しだけ柔らかくなったのが見えた。くそ、第三者の評価があると尚更、明確に生き物としての格が違うことを実感してしまう。俺が前世で何したっていうんですか仏様。


「ではいくぞ!」

「...は”い”!」


ガキン!

少年が気合を入れた返事をする。返事で喉から血が迫り上がる感覚でさえ、耐え難いほどの苦痛だった。しかし直後に腕に響いた音と比べれば、些細なものだ。腕から身体中の骨に振動が伝うそれは、骨が折れたことを脳髄に叩き込む鉄槌であった。同時に焼けるような熱さが筋肉の断裂を教えてくれた。体の主導権がない今の俺は、苦痛の吐け道がない拷問にあっていると理解した。なまじ少年が耐えて体を硬直させているために、暴れたい欲求が倍増する。


ガキン!

ゴキン!

グシャ!


バァさんのバトニングにより、骨は三度で折れて、四度目で肉を全て断った。

たった四度の、されど四度の極烈な痛みは、一生分の苦しみと錯覚させるモノだった。それは少年にとっても同じであったようで、顎に力を込めすぎて奥歯が割れていた。その感覚を最後に二人で意識を落とす直前に、俺は一つの後悔を魂の口にせざるを得なかった。


(猿轡、噛ませて...)


「すまん、忘れておった。」

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創作系魔法を片手にたずさえてチョイ厳しめ世界を開拓しますが、私は実験と検証で楽しんでいるので放置でお願いします。 漣 叢雲 @murakumo_sazanami

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