第3話 命の選択を

知らない天井だ。

いや、野宿だった。

白んできた空が朝の訪れを教えてくれる。


目覚めたのは、俺、我孫子雄大。転生...とは単純に言えないが、とある少年の第二人格としてここにいる。理由?そんなのは神のみぞ知るものだ。


そもそも転生の概念は仏教発祥の概念だから、この場合は「仏の導き」の方がしっくりくるよね。もしかすると、ここは輪廻転生における六道世界の一つなんかね?魔法ありのファンタジーワールドはどの区分なんだろ、地獄じゃないといいな〜。閑話休題。


現在の俺(少年)の体は、麻痺状態。正直考えを巡らせていないと痛みでどうにかなりそうなくらい色々やばい。体中が生死のサイレンを鳴らしているのがわかる。特にヤバそうなのがあのヒグマもどきの爪をうけた左側...


「おや、目覚めたかい。」

「...ぁあ、あぇ...」

「口は動かさんでいいよ、魂で喋りな。」


昨夜助けてくれた声のする方へと顔を向け、感謝の言葉を絞り出そうとしたが、それは叶わなかった。情けないことである。


どうやら声のあるじは50代くらいの初老の女性だとわかった。ゆったりとしたローブを着ていていかにも魔女といった風情だった。違和感を覚えるとしたら、腰に鎧武者のごとく固そうなプレートをいくつも繋げてジャラジャラと下げているところか。バァさん、それ腰痛めない?


(「魂でしゃべる」ってドユコト?)


「そう言うことさね。

なかなかあんたは念じる切り替えがうまいね。

魂の声が明確、かつ思考と切り離しができていて

こちらも聴きやすいよ。」


なんとバァさんはエスパーだった!だが思考盗聴はされないようで何より。バァさん呼びは心に留めておこう。頭にアルミホイルが欲しい世界はなかなかに地獄だと思う。あー体が痛い。邪念でも回すだけなら失礼じゃないし、痛み止めは許してくれ。


(昨夜は助けてくれてありがとう。)


「いひひ、どういたしまして。」


(俺の体について聞いていい?)


「...なかなかに冷静さね、坊主。

ま、時間をかけりゃなんとか回復するよ。

大体一月かかるけどね。」


(ほっ。それはよかった。)


「ぞ、ぞれじゃ、だ、めだ...」


どうやら少年の意識も覚醒したらしい。今の会話のくだりを、少年は俺を通して聞いていたようで、何かしら覚醒を促したようだった。まぁ妹の治療のため、時間が惜しいってことだろう。なけなしの体力で声を振り絞ったようだった。俺も喉まわり痛いから、魂通話にしようよ少年。気持ちはわかったから。


「魂と口が別の動きを...どうゆうことじゃ?」


やべ、変な関心抱かれてる。これは時間が迫るこっちにとって良くない展開だ。えーっとどう言い訳して話題を戻すか...

あーだめだ、痛みが常時あるから思考もまとまらない、ここは正面戦法で行く。名付けてショックな情報でガツンと一発作戦だ。


(魔女さん、この体には魂が二つある。

それには今は触れないでくれ、時間がない。

そして、図々しいが俺も妹も助けてくれ!頼む!)


「...」


ど正直すぎたか?


「わしは、空を飛べる。しかし人は運べん。」



...バァさん、ありがとう。誠意をただのガキに向けてくれて嬉しい。能力的に無理か、なるほどね。命の二者択一か。こればかりは痛みを理由に雑な話をするわけにはいかないな。

どうするよ、少年。



ーー魂の会話


僕は妹が助かれば良い!この薬草をすぐにでも届けてください!おばぁさん!


俺は俺(少年)が助かる道を選びたい。俺自身が助かりたいのはもちろん、体を共にするこの少年の魂の高潔さが失われるのは、惜しい。


なんてひどい!ただの大人の声の幻聴だと思っていたけど、お前は悪魔だ!僕の心に巣食う愛を忘れた悪魔なんだ!妹が死んだら僕は生きている意味がないじゃないか!


...残酷な話だが、俺が助かりたいもう一つの決定的理由がある。それは、妹の生死の峠はもう超えた後だってことだ。昨晩のうちに薬草を届けられなかったことで、今帰ってもあるのは結果だけだ。できることはない。


!!!な、なんてひどいことを!言うんだ!


だが事実だ。それなら生死の選択ができる俺の命を取りたい。


っお前は!後で必ず消す!

僕の心から一片も残さずに!絶対に!


オーケー、方針決定だ。



ーー魂の会話、終了




(魔女さん、俺を助けてください。お願いします。)


「...オオアカグマの特徴はその爪にある毒じゃ。

 確実に獲物を捕らえるため、また食べる時その消化を助けるため、

 その毒は肉を崩す。これの処置は、切断あるのみ、じゃ。」


(...そう言うパターンですか)


「おぬしの場合は左腕を全部かの。」


俺は妹の命を口八丁で捨てたことで、左腕を切断することになった。うーん最低野郎にふさわしい罰って感じだな。やっぱなしってことできない?

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