第2話 転生先は闇(後編)

目を開けると、そこは暗闇だった。


俺、我孫子雄大は、溶鉱炉に落ちて死んだはずだった。


ここはあの世?でも色々と感覚がある、というか痛い!


「...ここは?」


声も出た!しかも俺の声じゃない。こりゃ病院のベッドで色々手を尽くしましたがもう...って感じのやつかもなぁ。喉がイカれてたら俺は結構若い声が出せるんだね、最初で最後の新発見。


「そうだ、薬草を...」


薬草?そんなもんで全身火傷(推定)は治るわけねぇだろ。何言ってんだ俺は。

というか、俺歩いているな。何だこれ、意識がふたつある〜?


...これはあれか、アドバイザー転生ってやつかな。異世界転生の小説テンプレから派生した剣や自動販売機とかに転生するやつ。

非人間的なポジションで現地の人間をサポートしつつ存在を世に轟かせる、主体性のない人間からするとウマイやつ。


はぁ、そう言うことなら仕方ない。いっちょやってやりますか!現実感がないせいか少しポジティブだぜ。俺の場合、某デュエリストの「もう一人の僕...!」ってポジションで闇の云々とバトルすることになりそうだな!


...本当に何も見えないから闇の恐怖心との戦いしてる。


「...なんか危ない!現代人には暗すぎ怖い!!引き返せ!!!」


チョーシ乗ってすいませんでした。感覚があるのに体の主導権がないの、ヤバすぎる!動かしてる人格君(少年)、頼むから家に帰ろう〜(泣)


(うるさい!そんなことで妹を見殺しにできるか!)


精神が強い!これ、俺の方が弱い人格になっちゃう奴か〜?




しばらくして、木々の間から月明かりが見え始めた。それまで少年の思考は緊張と使命感でいっぱいで、碌に読み取ることができなかったが、今ふわりと安心の気持ちが湧いてきたことがわかる。ここが目的地の薬草の群生地か。

(これで妹が助かる!)

夜の山越えなんて無茶だと思っていたが、少年はやり遂げた。帰るまでが遠足とは言うけれど、これは口を挟む余地がない。俺の転生って意味あったのかなぁ〜、と思っていた時期が私にもありました。


ズドン「カハッ...」


痛い痛い痛い痛い!!

少年の視界が赤く染まる。頭からの出血がひどい。そんな視界にぼんやりと敵の姿が映る。ありゃヒグマか!?輪郭ぐらいしかわからんが、完全にこっちを殺そうとしている!


少年はとりあえず立ち上がろうとしているが、膝に力が入らないらしい。三半規管がイカれている状態で立っても無理だろ!くそ、医療知識チートは想定してないぜ!?


「とりあえず匍匐前進しろ!諦めるな!」

(ホフクゼンシンって?)

「腕で前に進むことだ!とりあえず腕!」


こんな時、応援しかできないのが歯痒い。でも頑張ってくれ!俺も転生してすぐ死ぬのは格好が悪すぎて泣けてくる!頑張れ!


だが、少年の意識の混濁はかなり酷かったようで、よりによって草原に向かって匍匐前進してしまった。死に際まで妹を治そうとするその心、なんて素晴らしいんだ...あっ、でも俺も自分のことがわからなくなってきたかも...やっぱりだめ!俺のためにも生きる選択肢を選べ!


「馬鹿!隠れるために動けよ!そっちは丸見えだ!」


強く強く念じるが、少年の意志は変わらないらしい。あーあ、終わりです。オツカレサマシター。




「誰じゃ?わしのテリトリーで死にかけとるやつは?」

しわがれた声、しかししっかりと張った弦のように凛とした風情のある声だった。三半規管がイカれてヒグマの鳴き声さえわからないはずだったのに、その声は魂に響いたようだった。どなた?3人目の僕ではなさそう。


少年はもう既に気絶していて、俺もかろうじて意識があるだけだったため、口は動かない。


「ふむ、答えられぬほどに死にかけか。


本来なら無許可でテリトリー侵害してきたやつは追い払うのじゃが...

しかし、危険を冒して薬草を摘みにきたような勇気あるものを

見殺しにするのは、わしも心が痛いの。」


すると、月光とは別の光がわずかな時だけ現れ、地面が揺れた。その振動で体が半回転して視点が再び森の方に向いたため、どうやら地面から棘が出てきたらしいことがわかった。転生した時点で少し思ってたけど、この世界ファンタジーで魔法ありそうジャン...


森の境界手前まで迫っていたヒグマは、その棘を見て動きを止めた。しばらくこちらを観察していたが、諦めたように山の奥に去っていった。た、助かった〜。


あ、安心したら俺も気を失いそう。


やばい、体の回復の当ては爺さんか婆さんかわからん声の主しかいない。頼むから回復魔法のある世界であってくれぇ〜...

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