創作系魔法を片手にたずさえてチョイ厳しめ世界を開拓しますが、私は実験と検証で楽しんでいるので放置でお願いします。

漣 叢雲

第1話 転生先は闇(前編)

3Dプリンターが安価に手に入るようになって感動したのを覚えている。


「これさえあれば"俺の"世界は思うがままだ」ってね。



我孫子 雄大は製鉄所で働く30代の男だ。

そして、彼の心中にはある野望が渦巻いていた。それは、自分の作ったものが賞賛され、人類史に永遠に刻まれることであった。彼はそのために、大きいものを作れるという理由で製鉄所に勤務し、自由に形を作れると言うことで3Dプリンターでの模型製作を趣味としていた。


なんというか、歪んだ野望であった。彼自身がビッグになってチヤホヤされることは望んでおらず、またクリエイターやアーティストとして成功することに人生を賭けることも臆病さゆえに挑戦していなかった。だが、ゴッホのひまわりのように狂人こそが残せるモノが存在する事実が、彼に生きる力を与えていた。


そんな怠惰な毎日が、不注意による溶鉱炉へのダイブによって唐突に終わりを告げたのだった。





「...ここは?」


暗闇の中で、少年はひとりごちた。

転んだのか、と少年は自己分析した。体中にじんわりとした痛みを感じ、服はところどころ破けていることを確認する。ただ、頭を相当強く打ったようで、今がどこでここがいつかわからない。いや、そうでもない...?混乱しているようだった。

だけど、何か目的があって夜の森に来ていたことは覚えている。


「そうだ、薬草を...」


妹の風邪の容体が急変して、居ても立ってもいられなくなって薬草を取りに来た。親は他界し、たった二人の家族になってしまった少年にとって、妹はとても大事な存在なのだ。翌日の昼まで医者を待ってはいられない。いや、俺は独身貴族コースのおっさん予備軍だったような...?


目的を思い出し、少年は起き上がってふらつく足で薬草の生えている隣山へと向かう。ただ、大人に叱られた時のような冷静な言葉が頭の中で響いている気がした。


(...なんか危ない...現代人には暗すぎ怖い...引き返せ...)


うるさい!そんなことで妹を見殺しにできるか!



隣山の木々の開けた場所に薬草は群生している。月明かりに照らされた小さな草原は、山の中と比べ輝いているようにすら見えた。

(これで妹が助かる!)

暗闇で心身が限界だった少年は、その風景に少しの安心を覚え、草原に向けて走り出した。


それが悪かったのか、それとも執拗に狙われていたのか。

油断した少年に太く鋭い爪が伸びた。それは大きな熊の一撃だった。


背後からの急襲に少年は吹き飛ばされた。

ズドン「カハッ...」

草原との境界となっている木に体を打ち付けて、肺の空気が押し出された音だけが響いた。体が吹き飛ばされた時に一回転したせいか、三半規管もダメになっている。死が目の前に迫っている感覚に少年は何もできない。


(...とりあえず匍匐前進しろ!諦めるな!)


声が頭に響く。ホフクゼンシンって?


(...腕で前に進むことだ!とりあえず腕!)


説明になってない。意味わからない。

けど、少しの勇気が生まれた。


「...そう、だ。...ハァハァ、僕は、まだ、死ねな、い...!」


腕を伸ばす、地面を掴む、引き寄せる。それを繰り返せば少しだけ前に進む。

そうだ、ついでに薬草をつかめれば一石二鳥だ、そうしよう...


(...馬鹿!隠れるために動けよ!そっちは丸見えだ!)


うっさ、い、妹、のた、め...





そうして意識が永遠に消える前に、人の声が夜に響いた。


「誰じゃ?わしのテリトリーで死にかけとるやつは?」

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