世紀の一戦
川口健伍
世紀の一戦
さあ、いよいよ始まります、世紀の一戦。この勝敗によって、我々の明日が決まると言っても過言ではありません。
実況は、当局アナウンサーの氷堂晴樹と、解説は軍事コラムニストの高嶺光里さん、このふたりでお送りします。
高嶺さん、本日はよろしくお願いします。今回の一戦、どうご覧になりますか?
どちらも後に引けない、死力を尽くした戦いになると思われますね。
やはりそうですか、――さあ、準備が整ったようです、いよいよ
――ああ、やはり! 国力で優っている環インド洋連盟が、国境の街を進撃していきます。重い! 重い! 岩石のような、隕石のような一撃!
これは、圧倒的ですね。
さて、今回の開戦の発端は、宇宙利権にあるという話ですが、解説の高嶺さん、改めて詳細をお願いします。
はい、みなさんもご存知の通り、二年前に人類は初の地球外知的生命体[ETI]からの接触を受けました。
いわゆる異星人ですね。
彼らは地球の各政体へ平等に今後の人類の進退を問いました。それから一年が経ち、人類は大きく二分されることになったわけですね。
みなさんもどちら側であるか、一度は考えたことがあると思います。
地球外知的生命体からの援助を積極的に受ける革新派と、現状のまま緩やかに発展していこうという穏健派――そうですね、俗に環インド洋連盟と北部ユーラシア連邦共和国の代理戦争のかたちをとって、人類が二分されています。
これは新たな冷戦とも呼ばれていました。
しかし、今回の開戦です。今後の人類の進退を大きく決定づける、そういう一戦になっているわけですね。
はい、ありがとうございました。たいへん目が離せないわけです。
環イン連は、今世紀初めから国力を増してきておりまして、陰日向に世界の紛争に介入してきた歴史があるわけですが、今回はそれともまた異なる、自ら率先した開戦であり侵攻となっています。
それだけ革新派として、ETIからの仄めかされている人類にとって未知の技術の、その存在が重大事であると、そういうことであると予想されています。
そうですね、ありがとうございます。一方の対戦国である北ユ国側を筆頭とした穏健派についても、解説をお願い致します。
はい、穏健派ですね。現在手酷い進撃を受けている、北ユ国を中心に、人類が現状のままETIの援助や介入を受けずに、しかし一方で地球の外にも知的生命が存在することを旗印に、緩やかに発展していこうという考えのもと、まとまった派閥になっています。急速な技術の変化と発展は、より多くの格差を生み出すことが懸念されるためですね。
実際のところ、高峰さんはどちらのほうが正しいと思われますか?
それは……かなり根源的な質問ですね。私としては――、
ああっとここで、ああなんということでしょう。橋が、人類の遺産が、最古の石橋が「十二の天使の橋」が、破壊されてしまいました! つらい! これはつらい! 悲しいことです! ゴシック様式の橋塔が、多くの恋人たちが愛を語らい、音楽家たちが思索を深めた、あの美しい橋が破壊されてしまいました……。
すません、氷堂さんが調子を整えるまではわたくし、高嶺が話を進めさせていただきますね。えー、それでですね、さきほど入った追加の情報によりますと、ああ、これは速報ですね。状況がまた大きく変化しそうです。環イン連内で反乱が発生した模様です。
なるほど、この文化遺産の破壊を受けて、国内の反発が高まった結果、環イン連内の穏健派の主導によって武装蜂起となった、そういうことですね。
背後には北ユ国側からの手引きもあったのかもしれませんね。
そうですね。
ですが、……いえ、やはり環イン連内でもその所業には、言葉を失ってしまったんでしょう。私のように。
そうですね。
――さて、環イン連革新派は後背を突かれ、急襲を受けました。北ユ国側が俄然勢いを取り戻し、また占領地域の線引が大きく変化しております。現状は北ユ国が優勢と言って差し支えないと思われます。
ではここで市井の言葉を拾っていきましょう。
戦争なんて信じられない。両国の市民が友達同士、家族同士でつながっているのに、どうしてこんなことが起こるんだろう。宇宙人なんて来なければよかったのに。平和を願うばかりだよ。#NoToWar #Peace
我々は国を守るために、人類を守るために戦わなければならない時が来たのだ! 環イン連の侵略行為に対して、北ユ国は決して屈しない! 勇気を持って立ち上がろう、仲間たちよ! #DefendOurLand #UnitedWeStand
戦争のニュースを聞いて、胸が痛む。無事を願いつつ、両国の人々が平和的な解決を見つけることを祈っています。無関係な人々が巻き込まれることなく、早く平和が訪れますように。 #PrayForPeace #Hopeful
なるほど、市民感情としてもやはり北ユ国側に友好的な意見が多いようですね。
分母をどこに求めるかによるとは思いますが、やはり世論としては人類は革新を求めていないということなのでしょうか。
そうでしたね、我々は実際にどちらの立場であろうとも実況解説を行っているわけですが?
いやいや、それはね、この状況ではなかなかおおっぴらにするのもむつかしいというものですよ。
そうですか? 実際はどちらなんでしょうかね。私は実は――、
ここで速報です。戦争が終結しました。
え? 本当ですか? ――ああ、本当ですね。これはなんということでしょう。北ユ国が消滅しました。
環イン連から勝利宣言が行われ、北ユ国が併呑されることに、消滅してしまいました。
これはいったい、どういうことだったのでしょうか。
そうですね、さきほどまでは北ユ国の優勢だったわけですが、突如として北ユ国の軍首脳部の機能が停止してしまったようです。そのため、戦争状態の継続が困難になり、北ユ国は降伏したということですね。
軍首脳部の機能が停止しても前線は戦い続けたりもするものですが、どうやらこの戦争終結には、ETIの介入があったようですね。
環イン連側を後押しするかたちで、ETIが動いたということですね。革新派の後ろ盾でもあったわけですし、利害が一致したということでしょうか。
状況を整理しますと、環イン連の特殊部隊が衛星軌道からの降下攻撃を行い、北ユ国首都にあった軍首脳部を壊滅させました。この特殊部隊がETIの技術供与を受けており、新型の強化外骨格をまとっていたと言われております。
では、今回の一戦を総括させていただきと思います。
はい、環インド洋連盟と北部ユーラシア連邦共和国との戦争は、環インド洋連盟を中心とした革新派とETIの勝利となりました。
この結果、今後、我々人類はETIの支配を受け入れていく、そういうことになると思われます。
そうですね、では、次回もお会いできることを祈って、本日の放送を終了します。ありがとうございました。
世紀の一戦 川口健伍 @KA3UKA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます