「――――――ここにいてくれたんだね」

 誰?懐かしい匂いがする。

 ただ、目の前が眩しくて、休日の朝日を思い出すばかり。開いた目に入ってくるのは光ばかりで、景色はよく分からない。どうやって、どこへたどり着いたのかも、私は知らない。ただ、真っ白な世界が広がっている。

 心地良い。ここが、私の居場所――――?

「僕はずっと、側にいるから」

 警戒することもなく、その腕の中で私は眠る。その頃にはハヤブサであることを忘れ、温かな声一つで、辛さをも忘れられた。未来も過去も、何とかなるような気さえしてくる。だけど、


 意識が遠退いて、声が、聞こえない――――。


 ◇


 遠くで誰かが言う。

「僕のこと、嫌いになった?」

 いいや。そんなことない。大好きだよ。

 声の正体は心が知っている。

「どうしてあんな場所に――――いや、母親に…………会いに行ったのか」

 そんなこと、考えたことはなかったけど、そうかもしれない。今の私だったら、受け入れてもらえるとどこかで思っていたのかもしれない。人間ではない、ハヤブサだったから。でも、そもそも目的地なんてなかった気もする。

「どうやって、あの場所に?」

 私はハヤブサだったの。大空を翔たの。本当かどうかは分からないけど。

「僕の言葉、届いてるかな?」

 届いているよ。

「寂しかったよ」

 私も。

「悲しかったよ」

 ごめんね。

「あなたの友人でいられて、良かった」

 あなたが友人で良かった。

「愛してる」

 そっか――――愛されてるのか。

「誰よりも、愛してる」

 ありがとう。

 嬉しい、なぁ――――――。

「お願いだから、目を開けて………………」

 私の言葉は、もう、届かないんだね。

 届かないって、悲しいね。それに、少し悔しい。

 思いはここにあるのに。

「愛、し、てる」

 光の中で聞こえる声が震えるから、涙に気がついた。

 ほら、やっぱり、泣き虫なのね。

 でも大丈夫。ちゃんと聴こえてる。声や温もり、その存在を感じられなくなっても、心がきっと、あなたのことを覚えている。意識が途切れても、何十年と時が経っても、どこかで想いが交わる。

 私はそう、信じている。

 だから大丈夫。


 伝えたい。泣き虫なあなたに伝えたい。血は繋がっていないけど、誰よりも家族でいてれたあなたへ、最後の一言を。

 そんなあなたも、


『愛してる』

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空翔る、私 弥生 菜未 @3356280

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